結婚式の前に


雨がざあざあ降っていて電話の声もよく聞こえないくらいだった。傘をさして1人待つ彼女の姿を見れば涙が出そうになった。泣くな、俺のせいなんだから。泣きたいのはきっと、彼女の方なんだから。

「名前」
傘をさしたまま彼女が振り向いて俺の顔を見てすぐに全部わかったみたいに笑顔を強張らせた。
「だめだった……ごめん」
「うん」
だめだった、結婚許してもらえなかった。まだまだ売り出してる最中で女性中心に人気も出てきて、ようやく軌道に乗った俺じゃだめだった。今日、その結論が出るまでこんなに待たせてごめんな。大事な毎日を何年も俺に、一緒にいたって何もしてやれなくて結婚もできない俺に使わせてしまってごめん。

「いいよ、わかってる」
「……ごめん」
「泣かないで。いいの。アイドルで頑張ってるところも好きだったの。もちろん、その前だって好きだったよ」
情けなくて涙が出た。名前の薄いピンクに彩られた指先がそうっと俺の涙を拭って離れていった。
「……いいの。もう、何も言わなくていいよ」
ごめんな、こんなに好きなのに、俺はそれでもアイドルをやめないよ。こんなに大事にしてくれた名前と今の仲間や夢や仕事を天秤に乗せたら必ず傾く。

「今まで、ありがとう」
「私の方こそ、本当にありがとう。大事にしてくれたの、わかって嬉しかった」
名前はじゃあね、と言って駅の方に一人で歩いていった。去り際に握り込まされた指輪があたたかくて涙が出た。

なあ名前、明日俺は相手のいない式場で一人で白いタキシードをきて誰かを待つよ。お前の好きなまあるいバラを胸に刺すよ。世界一すてきな新郎になってカメラの前に立つよ。そのCM見たお前はなんて思うだろう。怒るかな、泣いてテレビを消すかもしれない。本当は、お前との結婚を許されて予行練習になればいいって思ってた。ごめんな、俺はまだまだ未熟で、夢の途中にいるよ。

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