護るべきか逃げるべきか
>>ふらんすざくと巴里花組の夢主の話(SideMサクラ大戦クロスオーバー)
>>時代とかそういう難しいことは考えないでいける
「正義の味方に必要なもの?」
真っ白なパラソル、通りのマロニエも美しくかがやく昼下がりのシャンゼリゼ。正面に座る朱雀くんはわたしおすすめの巴里最新スイーツ(たくさん積んだオムレツ風のパンケーキにアイスクリームとアプリコットのジャムがたっぷりかかっている)を前に目を輝かせ、「いただきます!」と勢いよく手を合わせて銀のフォークを光らせた。いただきます、っていうのは大神隊長が食事の時にするから知っている。隊長とそれから朱雀くんの故郷、それから顔も知らないわたしのママの故郷でもある日本の食べ物に感謝する挨拶なんだって。
朱雀くんはフランスにはショウのお仕事をしに来た日本のアイドルで、街に怪人が出た夜にわたしが先走って一人きりで戦おうとした時に助けてくれた……というか巻き込んでしまった。逃げ遅れた人の避難を助けてくれたお兄さんたちは怪人相手に武器を使いまくるわたしたちを見てギョッとしていたけど冷静に対処をしてくれて本当に助かった。わたしの方は団員や隊長からは、もちろんグラン・マからもすっごく怒られた。
今、巴里華撃団は戦いの最中で、わたしたち団員と隊長が一丸となって平和のために日々戦っている。彼らを巻き込んでしまったわけだから事情を説明しないわけにもいかず、その上朱雀くんと一緒に仕事に来た1人である雨彦さんのお家が帝都の華撃団となかなかに縁のあるところだったということもあって今朱雀くんたちに一連の事件の解決のお手伝いをお願いしているところ。
「ああ、四銃士の公演をするんだものね……難しいね」
それぞれの立場も役割も違う4人。それは役でも彼ら自身も同じことで朱雀くんは真面目にそのことで悩んでるらしかった。初めて会った時も悪を蹴散らすアイドルだ!って自己紹介してくれた。それとこれとは少し違うみたい。
「そういえば名前はいつもどうやって役があるときは役に入るんだ?」
「うーん……わたしの演目はショウの面が強いからあんまり……でも恋愛経験豊富な女のひとっぽい曲は強気で強気で!って思ってる。それにわ、わたし自身恋愛経験豊富とはいえないし……朱雀くんの方が経験豊富なんじゃないの?」
「そそそそそんなことねえよ」
朱雀くんは声を上ずらせ、目線を左右にウロウロさせた。彼らのお仕事をまとめる人、プロデューサーさんからこっそり教えてもらったけどサムライのボスの役も海賊のお頭の役も完璧にこなしたって聞いてたから演技のお仕事の経験は豊富なのかと思っていたけどやっぱり日本人は謙遜しいなのね。
はじめてあったときに思い切りぶつかってしまったわたしにも大分態度がぎこちなくて、最初は嫌われてるのかしらと落ち込んだ。それは違うんだって握野さんや天道さんが教えてくれたからそうだって信じてるけど朱雀くんはわたしのキスも必死に拒むし(挨拶くらいさせてほしい)、ショウの衣装のままのわたしとは絶対に目も合わせてくれない。
今日もお互い公演と訓練の合間をぬってのデートだから精一杯おめかししてきたのにかわいいねマドモアゼルの一言もなければ手を取ってキスなんて夢のまた夢。パンケーキを食べる姿もこうして悩む姿もすてきだからそれはそれでしあわせなのだけれど。大分思考が逸れたので彼の悩みを解決するお手伝いに戻る。朱雀くんたちのショウの練習を見せてもらったことがあるので歌は聞いたことがある。日本語は苦手だけど難しい言葉は隊長に辞書を借りて意味も調べた。
「……守りたいものもそうでないものも全部、守れることじゃないかしら」
「あ?」
「私たちにとって守るべきはこの巴里のひとたちとその平和。でも、中にはどうしてこの人も守らなくちゃいけないのと言いたくなることだってあるでしょう。それも、全部守れる人が正義に必要なことじゃないかしら。変なこと言ってたらごめんなさい」
許してね、と言って朱雀くんが黙っているのを見、それからパンナコッタにスプーンを入れる。ジャスミンのソースが華やかで見た目も可愛くて百点満点。朱雀くんといったら、「守る……」とつぶやいたっきりフォークに刺したパンケーキのひとかけがゆらゆらしているのにも気付かず怖い顔で何かを考えている。
「大切な貴女を守りたいと思ってもそうもいかない時もあるなって輝さん、そういうことかよ……!!!」
かと思えばがばりと突然頭を抱えてよくわからないことを呻く。彼には日本においてきた相棒がいてその人がすごく頭のいい人だから任せがちの考え事はめちゃくちゃ苦手なのだと言っていた。手伝ってあげたいけれどわたしに何ができるかしら。
「朱雀くん、わたしに何ができる?わたし、朱雀くんに助けてもらってばっかりだからお礼をさせて」
胸の前で腕を組みそう懇願すれば、朱雀くんは頭を抱えて突っ伏したまま炎と血の色をした目だけあげた。鋭い目がじいっと見てくるのでどぎまぎしてしまう。名前!シャノワールでは満員のお客様を相手にしてるのに情けないわ!華撃団のお姉ちゃんたちの声が聞こえてくるよう。
「手伝ってもらえるようなことがなんにもねえ……でもありがとよ、今の結構参考にできそうだぜ」
「ならいいのだけど……なんでもするから言ってね」
「な、なんでも……」
朱雀くんの喉がゴクリと鳴ってそれを打ち消すみたいにぶんっと腕を振り上げて見せた。その腕に大きな青あざがあってもしやこの間は巻き込んでしまったときの傷かしらと焦ると、朱雀くんは「剣の練習してるからそのときにぶつけちまってよ……重てえの振り回してるからぶつけるとあっちもこっちもあざだらけだぜ」と顔をしかめた。
「傷ついても構わないとか、怪我ならいつかは癒えるとか、そういうのが大切なレディを守るためなのが嫌だわ。わたしなら武器か光武さえあれば傷つきながら戦う愛する人のことをすぐに助けにいけるもの」
太い腕とはいえあの大剣を振り回しているのだから相当に痛かったことだろう。銃剣を主に使うわたしも昔振り回してうっかり頭にぶつけ脳震盪を起こしたことがあるのでその衝撃を思い出して思わずきつい口調になってしまう。エリカのような誰かを癒す力がないのが歯がゆい。さすっても痛いだけだろうし、じっと見つめると気まずそうに袖を下げられてしまう。大したことないから、と言われても気にするなという方が無理だった。
「本番失敗しないために練習してんだからいいんだ!これで!名前だってそのために毎日訓練して練習してんだろ?」
「そうかしら」
な!おんなじだよなあ!と朱雀くんは快活な笑みを見せ、ぷらぷらしてたパンケーキを大きい口を開けて食べてしまった。
「そうと決まれば戻って練習しねえと!みんなを守る名前も守ってやれるくらい強い役になるんだからなあ!」
朱雀くんの何気ない言葉にわたしはどきりと心臓を跳ねさせ、スプーンを下ろした。銃剣を振り回し、光武に乗り込み闘うわたしが、守ってもらえるなんて考えたこともなかった。華撃団のみんなと支え合って、闘う時は援護しあってそれでも自分が守られる側には絶対にならないって思ってた。
「わたしも守ってくれるの」
「当たり前だろ!名前だってオレの、大切なひとなんだからよ!!」
はっきり言い切ってくれたところはすっごくかっこいいのに自分で言った言葉を反芻しておろおろして「今……オレ……すげえこと言ったな?」ってめちゃくちゃ照れるのはやめてほしい。
「……本当に?」
スプーンを手放し席を立ち、麦わら帽子を忘れずに頭に乗せた。
「オレは嘘はつかねえ!できない約束もしねえ!名前をがっかりさせるようなこともしねえ!絶対だ!」
胸を張ってそう言いのけるところがすごく素敵だと思った。すごく眩しくて、すごく優しいひとだと思う。でもいつだって彼が真っ先に見るのは”悪”の方で、その結果として守る人たちのことを見ているんだと知り合ってからすぐに気づいた。怪人側だったら、わたしのことを真っ先に見てそれで本当に悪い奴なんていないって助けてくれるのかな。それとも怪人は悪だとちゃんと成敗してくれるのかな。好きになって何回も考えたことだけどこの間ついにロベリアに「恋をして愚かになることだけは許されない」と釘を刺されてしまった。
「名前?どうした?」
朱雀くんはふわりと風で飛んだ麦わら帽子を大して見もせずに掴み、わたしの頭に乗せ直した。
「なんでもないよ。ほら、」
早く行かないと練習時間減っちゃうよ。わたしの言葉を遮って朱雀くんはがしっとわたしの両手を掴んだ。
「言いたいこと、言えよ」
「えへへ」
「こっちがスッキリしねえ!」
「言ったら朱雀くんすっごく困ると思うよ」
「そんなことねえ!」
「……後悔しない?」
「しねえ!」
「ふふふ、絶対するから言わない!ねえホテルまで競争しましょう!30秒したら追いかけてきてね!」
「あっこら待て!」
律儀に朱雀くんは30秒待ってくれるみたいでスカートがめくれ上がらないようにするのと麦わら帽子を今度こそ落とさないように抑えてシャンゼリゼ通りを疾走した。初めてあった時もこんなのだったなあ。前を見てなくて朱雀くんにぶつかって……
「待てオラァ!!」
後ろから爆速で走ってくる朱雀くんに歩く人たち皆が振り返った。顔が怖い!わたしは面白くなってきて笑いながら朱雀くんたちの泊まってるホテルを目指す。不意にズルをしようと思って路地を曲がれば朱雀くんは当然止まれずにうおっどこ行ったあ!?なんて大きい声を出している。はあ、わたしだって鍛えてるけど朱雀くんには敵わない。こうして路地裏で息を殺して、怪人もこんな気持ちなのかしらと考えた。
「……見つけたぜ……」
「ひっ!」
ものすごい形相の朱雀くんが路地のレンガに手をかけて近寄ってくる。ああ楽しい!きっと追い詰められた怪人もこんな気持ちだわ!
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