君とどこへでも
「見て見て!こーんなにプレゼントもらっちゃった」
翔太がぴょんと背中に飛びついてきて、私は驚きすぎて手にしていたスマホを手から放り投げてしまった。
「あっ危ないなあ!」
「すみません!それとお仕事お疲れ様でした」
「もー名前さん、お疲れ様って言う前にちゃんと僕のこと受け止める用意しといてよね」
「そういうこと言うなら足音消して近寄るのやめてください!」
「無理!」
見るものを魅了してやまないスマイルでピースまでしてはっきり無理だと言いのける様には呆れて口を閉じるしかない。名前さんは何してたところ?翔太はたくさんもらってきたプレゼントをかばんの横に置いてテーブルにたくさん広げていた資料を覗き込む。
「皆さん海外のチームでのお仕事が始まったのでそれの行き先を調べたりすでに行ったところのをまとめて次の時に改善できるようにと思って……」
「ええーっかたいよ!せっかくこんなにパンフレット広げてるからどこか旅行に連れてってくれるのかと思ったのに」
「私と翔太が?」
「うん」
アジア、オセアニア、ヨーロッパ、はては南極といったいろんな国と地域のガイドブックや渡航についての資料が広がる中から翔太はブラジルのものを取ってぱらぱらとめくる。ブラジルもいいね、シュラスコにカーニバルにアマゾン川下り、ワニとバトル……私の不穏な提案は無視してシュラスコって何?と翔太が聞いた。串刺しの大きなお肉削って食べるやつだよ、翔太はあんまりピンとこなかったらしくふーんと言って文字はほとんど飛ばしてペラペラめくった。ブラジルっていったらサッカーだし冬馬くん向きじゃない?お肉も川下りもさあ、ともっともなことを言われてしまう。たしかにピラニアも朝のアマゾン川を眺めながらいただくしぼりたてアセロラジュースも翔太より冬馬くんの方が向いてるかも。
「じゃあ冬馬くんに頼まなくちゃ」
「絶対ブラジルに連れてくかんねー!ってやつ?冬馬くんなら頼めばやってくれるんじゃない?」
翔太はぽいとブラジルのガイドブックを手放した。
「冬馬くんがブラジルなら北斗くんは?」
「うーん南の国のビーチとか?あとはサバンナとか……」
ビーチならバリ島とかどう?と青い海の眩しいパンフレットを渡すとあーこれこれ!と翔太がまたぱらぱらめくり出す。
「パラソルの下に寝られるやつ置いてさあ、すごいジュース置いて寝そべってるのとか北斗くん似合いそうだよ」
「いいねえ。私はハンモックもおしたい」
「そしたらまたあの限界な水着履いてくれるチャンスがくるよね。名前さん、その時はよろしくね」
「ええー無理でしょ……」
ギリギリすぎる水着より、海から上がって濡れたカラダに白いシャツ一枚〜髪を無造作にかきあげて〜とかの方が受けそうじゃない?と提案したらそれはそうだけどそれはそれとして断られると履かせたくなるじゃんと翔太が不満そうに口を尖らせる。なるほど、事務所を移って再スタートからしばらくそろそろそういう路線もまたやってもいいかな?と思ったけど北斗くんのことだから打診したら引きつった顔で断られそうだ。
「そうだ、翔太はどこがいい?多分希望通りとはいかないけど」
「どこでもいいかな。あんまり遠くはやだけど」
名前さんはどこがいいと思う?と逆に尋ねられて困ってしまう。にこにこしてる翔太の顔を見返すと思いつかない?ってちょっと残念そうな顔をされた。
「ずっと考えてたけどどこも似合うので候補が絞れなくて……」
「例えば?」
「例えば!?うーん、シンガポールの高級ホテルでお昼寝したり夜景見に行くのもいいし、豪華なホテルでライブとかいいよね。それからオーロラの見えるところでライブとか?犬ぞりもきっと楽しいよ。毛でモコモコの衣装も似合いそう!あとは古代遺跡みたいなところ連れてっても楽しそうだし、そういうところの神秘的な感じ!翔太のパフォーマンスで動的に表現できるのよくない!?綺麗な街並みのところもいいよね。翔太がオフの格好で散歩してるの見たいなあ。マルタ島とか?ヨーロッパの石畳とレンガの街もいいなあ。それからお寺とか教会みたいな建物ってすごく綺麗なんだよ。あっフランスだったら美味しいもの食べ放題だったけど他の国でも美味しいものはたくさんあるからどこの国に行ってもそこは心配しないで。あとはメンバーと新しい衣装と曲も関わるしうーん露出ありかなしかでも悩ましいなあ……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「え?」
「名前さん勢い良すぎ!っていうかよくそんなに思いつくね」
「翔太が聞いたんだよ」
「そうだけど!」
……名前さん僕のこと好きすぎじゃない?眉を思いっきり寄せて翔太はそう言うけど翔太のことは大好きなのでそう言われても困る。素直にそう言えばいやそれは知ってたけど〜!と頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「よく見てるでしょ?」
「自分で言っちゃう?」
綺麗にあげてある前髪がかき乱したせいで落ちてきている。それをのけてやると翔太は猫みたいに目を閉じた。
「翔太のこと大好きなのも、よく見てるのもほんとだもん。また思いついたらどこ行きたいか教えてね。」
「やっぱりどこだっていいよ」
「えー」
パッと翔太が目を開けて、大きな目でじいっと私を見た。蛍光灯の光と私の影が写り込んでるのまでよく見える。
「だから、名前さん僕にとっておきの行き先考えといてね!それからお仕事じゃない旅行も連れてってほしいなあ」
「……旅行はお休み取れたらね」
机から身を乗り出して僕すっごく楽しみにしてるからね!と言われてしまうとだめとも言えない。どこがいいかなあ、めくった拍子に資料が一枚舞って、翔太が床につく前にひろった。
「どこに行っても絶対楽しいよ」
名前さんとならどこだって絶対退屈しないでしょ。翔太はにっこり笑って「はい、落し物」と資料を差し出した。
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