春はおいしい


>>春香と女性P やや百合

「春香、お仕事中?」
「あっ大丈夫です!お疲れさまです!」
事務所のソファでブログの内容を考えていたところ、営業から名前さんが帰ってきた。
「ブログ?お誕生日おめでとうっていっぱいメッセージ来てるんじゃないのかな」
「えへへ、そうなんです!嬉しくて昨日名前さんと相談して内容決めたけどもう一個更新しようかなあって」
「ファンの皆も喜ぶよ」
カバンを下ろして名前さんはシャツのボタンを一つあけた。大人の女のひとって感じがしてすごくかっこいい。名前さんはそうだ、頑張る春香に差し入れだよって丸々としたオレンジ色をビニール袋から取り出した。

「わあっ!えっとこれは……」
「へそが出てるでしょ?」
「あっデコポン!」
「当たりー」
「すごい、大きいですね!」
「高いやつだよ!今日営業先からもらって、事務所に来る途中劇場にプロデューサーくんと美咲ちゃんと小鳥さんがいたからおすそ分けしてきたの。それの残りなんだけどね」
小鳥さん今週向こうの勤務多いんだって、と名前さんが言って残りは社長にあげるって袋を縛った。

「いいんですか?これ、私だけもらって」
「いいのいいの。春香が頑張ってるからあげたくなっちゃった。今食べる?皮が柔らかいから剥きやすいよ」
さわやかな香りがして、熟れたオレンジ色はきっとすごく甘いんだろうなってわかる。はっさくとかと比べても皮が柔らかい。

「あの、一緒に食べませんか?」
「私?でも春香、半分になっちゃうよ」
「せっかく名前さんがくれたから一緒に食べたくて……だめですか?」
「……うれしい」
名前さんの顔がぱって赤く染まって、すぐさま半分に切ってくるね!って立ち上がって給湯室の方に行ってしまう。半分に切って切れ込みを入れるだけだから名前さんはすぐ戻ってきてその時にはもう「ねえ春香!すごい!これフォトジェニックじゃない?」と盛り上がっていた。
「本当ですね!かわいい〜!」
横に刃を入れたから断面に房の切り口が並んでいる。ひとつひとつのみずみずしいオレンジが目にも眩しい。
「ご相伴にあずかりまして……いただきます!」
「私もいただきます!」
皮も柔らかく剥けて、一房をちぎる。大きい実だから半分になった一房でも大きい。甘い!名前さんが目を輝かせてすぐさま二つ目をちぎる。
「おいしいです!」
「ね!水分がすごい!」
ゆっくり食べようと思ったけど名前さんも私も無心で食べてしまい、最後にはぺろんとした皮とさわやかな匂いだけが残った。

「これ、パフェとかスイーツにしても美味しいんだろうね」
「フルーツサンドも美味しそうな気がしますね!」
「うわー食べたい!春はなんでもいちご!って感じしてたけどデコポンも美味しいんだね」
名前さんと今度仕事で行くことがあったら帰りにあそこの何を食べようという話はよくするし、実際によく連れてってもらう。最近はいちごにばかり目がいっていたけど春はなんだっておいしい。それに名前さんは私がどの季節に何を手作りして持っていってもおいしい!春香は天才だねって喜んでくれるけど春になるとそれはいっそう顕著になる。

「あーおいしかった。春香、お家に持って帰る用にもう一つあげようか?」
名前さんが指差したビニール袋には目にも鮮やかなオレンジ色がつまっている。横に首を振った。
「ひとつくらい減っても社長にはわからないよ?」
「いいんです!名前さんと半分こして食べたのが美味しかったから、それで私、すっごく満足しました!」
ごちそうさまですって名前さんに言ったら、名前さんはソファに座ったままぽかんとしてた。あれ、何か間違えちゃったかな?
「私も春香と食べたから美味しかった。ご馳走さまでした」

名前さんはやっとのことでそう言って、また一緒においしいもの食べに行こうねってにっこり笑った。私はそれが嬉しくて、心臓がドキドキしてしまう。春限定のロールケーキを食べに行くのもいいし、クレープもおいしい。それとも最近はやりの硬めのプリンを作ってもってこようか、前に作った時はブラウニーが一番喜んでもらえたなあ。どのお店を勧めても、私が作ってきても名前さんはきっとすごい!春香!美味しいね!って喜んでくれる。食べるお菓子が美味しいだけじゃなくて、名前さんは私と一緒だから喜んでくれるって思ってもいいのかな。やだ、これってもしかして……!!


*前次#

TOP