インテリアイドルと合コンの話
名前が帰ってこない。どこをふらふらしているのかとスマホを確認しても一向に連絡がこない。数時間前に送ったメッセージに既読もつかない。日付がもうすぐ変わるし終電も近い。まったくどこをほっつき歩いているのだろうか。
大学の友達とどこかで食べて帰るにしても遅すぎるし既読もつかないのはおかしい。私の愚痴でも言いまくってその場のノリで未読無視とか……ありえる。それかサークルの集まりとか。名前の所属してるサークルにちゃらちゃらした男がいて同回だからなんとかとか言って名前にやたら絡むから気にくわない。名前もただの同級生だよとか言ってて危機感も何もなくて話にならないのだ。既読がつかない上終電も近いしなんだかむかついてきたのでとりあえず電話を連打した。タクシーで帰ってくるならまだしもあのちゃらついた男の家に泊まるなんてことになったら……!!名前はあほだから最悪の事態を考えておいて損はないのだ。
「荘一郎〜」
「この馬鹿!」
電話に出た名前はだいぶへらへらしていた。
「どこにいるんですか」
「あとさんぷ〜ん」
「何が、あと3分なんですか……」
「もよりぃ」
「最寄り!?」
北口のコンビニに入って絶対そこから動くんじゃない、絶対!名前はは〜い!と返事をして電話を切った。あと3分で駅に行くなんて到底無理なのであとは名前がどれだけ大人しく待てるかだ。あのテンションからして酒も入ってるだろうしあまり期待してない。
「あっ荘一郎!」
「まったく……3分前に連絡するあほがどこにいます……ここか!?」
慌てて迎えに来た私をよそに名前は約束したコンビニで雑誌を読みながら待っていた。雑誌をラックに戻させると名前は水を買ってからコンビニの入り口に戻ってきた。
「迎えきてくれてありがとう〜」
「今日何してたんですか、サークル?」
店の前に止めてたチャリのロックを外して行きは慌てて漕いできたそれを今度は押して帰る。
「ううん、合コン」
「ごっ……合コン!?」
「ご飯食べてそのあと二次会でカラオケ行ったの」
「だ、誰と……」
「学科の子と!男の子はよその大学の子だったけどね」
「へえ……」
動揺を見せないように相槌を打った。名前が酔っ払いでよかった。私の雑な相打ちにも気にせずあれが美味しかっただの今度これが食べたいだの話している。名前は私立の女子大に通っていてインカレサークルは他大の男もいるけどふだんは女子ばかりだから油断していた。合コン!?私と付き合っている(なんだか不安になってきた)のに合コン!?たしかにパティシエをしていたときは下積み、働いてからも朝から晩まで店にこもりきり、そして今はアイドルで名前に寂しい思いをさせているという自覚はある。名前に見せてもらったサークルの集合写真やイベントの写真で名前にやたら絡む男の顔を思い出して今度は腹が立ってきた。
「あーでもね、デザートはあんまりだった……冷凍のケーキでね、生クリームとソースがお皿に絞ってあるの……」
大学生の行くような店の飲み放題つきコースのデザートなんだからそんなものだろうと私はそうですか、と返事をした。
「やっぱり荘一郎のケーキとか食べてるからかな……巻緒くんが荘一郎に狂うのもわかる気がする……」
「その勘違いされるような言い方はいい加減どうにかならないんですかね」
名前に出していたスイーツは下積みの頃、閉店後に練習で作ったものだとかカフェパレードでも客に出せない形の失敗したものとかばかりでそれでも名前は荘一郎はすごい、って喜んで食べた。最近はプロデューサーさんに差し入れすることはあっても名前にそれを食べさせることはしばらくなかったなと思い返す。
「あとねえ、カラオケも……歌の上手い子とかもいたんだけど荘一郎が一番上手いなあって思うよ」
はっとして名前の顔を見るとへらへらしていた。歌ならユニット内にも事務所にも、自分より得意にしているひとはいる。それでも名前は私たちの新曲を怪しい英語で歌って荘一郎の声好きだなあってまた私を見てへらへらした。一体何杯飲んだんだか。
「歌もスイーツも荘一郎のじゃなきゃおいしい!すきーって思えなくなっちゃったのやばいよね……どないしよ……」
「しょうもな……」
名前の目がとろんとして眠たそうに足がよろけた。私のを聞いて覚えた下手くそな関西弁に呆れてしまう。よろけた拍子に綺麗に巻いた髪がふわっと広がる。いつも忘れ物は多いくせにそういうところはしっかりしている。
「荘一郎〜」
「危な!」
眠そうにしていた名前が突然ぎゅうと首に手を回してきたのでチャリをはっ倒しそうになる。
「あと少しで着くんだからもう少し頑張って、」
「荘一郎じゃなきゃ嫌あ〜」
「……そんなつまらないこと言うくらいなら、合コンなんて行かなきゃいいんですよ」
名前の果物やお菓子とは違う甘ったるい香水の香りを吸い込んでため息が出た。このかわいい酔っ払いはメガバンクきまったラグビー部よりいいとこの大学院行くメガネより荘一郎がいい〜とぐりぐり頭を押し付けてごねている。せっかくきれいにしてる髪が崩れるだろうに、名前は鎖骨のくぼみのとこに額を押し付けて合コン行ってごめんねえと言った。
「だから、そんなつまらんこと言うなら行かなきゃいいものを……」
早く迎えに行こうと連れてきたチャリが邪魔で仕方ない。酒だっていつも飲まないくらいには得意じゃないのに、どうせホイホイ付いてってから合コンだって知らされるパターンで酒を飲まされたりすすんで飲んだりしたんだろう。
早く家に戻って、ちゃんとこの馬鹿を抱きしめて、私だってあなたが思ってるよりあなたのこと好きだって言ってやりたい。久しぶりに何か焼いて名前のためだけにクリームやフルーツで飾ってみようか。私がそう思ってるのに名前はいつまでもまとわりついて歩くのを邪魔してくる。
「荘一郎、好きだよ……ごめんねえ……」
あほ、かわいい顔してかわいいことばっかり言って!言われなくたってそんなこと昔から知っているけどまだ屋外だからはいはい、と呆れるに留まった。首から腕を剥がして、そのまま帰るには惜しくて手を繋ぐ。ぱっと顔を赤くして私を見上げてくるのがまたかわいくてこっちが困る。付き合って何年めだと思っとんねん。かわいいのもいい加減にしてほしい。
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