君を誰より知っている
スーパーに輝さんと行ってサーモンが20%引きになってた時、輝さんは「おっ今日はムニエルに決定だな!」って言う。私は絶対ホイル焼き派なので抵抗するけど輝さんは「なんでだよ、ムニエル好きだろ」って言う。もちろん私はホイル焼きの方が好きなので若干揉める。一悶着あって2回に1回は輝さんが折れてホイル焼きになるけど。アサリの時もそうだ。輝さんは嬉しそうに「酒蒸しにしよう!」っていうけど私はお味噌汁のほうがいい。飛行機で牛か魚か聞かれてもだいたい割れる。そんなのだから、結婚って言われてもうまくいくのかなとか思ってた。そろそろ結婚考えてる?みたいな話になっても食の好みの微妙なズレとかよくないみたいに聞くしうーんまだまだ!って感じで。
食の好みのことだけじゃなくて前に夜シンデレラ城の前でプロポーズしてるカップルを見た時も私はそんなの恥ずかしくて無理って思ったけど輝さんはちゃんとおめでとう!って祝福してちょっと羨ましそうにしてた。私はそういうフラッシュモブとかテレビで見てもうわ無理!みたいな反応するけど輝さんは嫌いじゃないみたいだったし。誕生日にとっておきのサプライズ!とか好きだし。
「結婚してください」
だから正直驚いた。輝さんのお気に入りのあんまり高級すぎないフレンチで、お互いオシャレはしてるけどめちゃくちゃフォーマルな格好とかじゃない。このままホテルのスイートへ、って出来るようなホテルのレストランでもない。たまに何かいいことがあったら来る約束みたいになってるお店。お肉もお魚も美味しくて、窓から見えるお庭がすごく綺麗で輝さんに連れてきてもらって一目で好きになった。お店の外も中も黒いヨーロッパ風の入れ物にオレンジの光のランプで統一されていてとっても雰囲気があるところが特にお気に入りだ。でも、輝さんがプロポーズの場所に選ぶのはなんだか意外な気がした。
「必ず、幸せにする」
黙ってる私を見て、輝さんは真剣な顔でそう付け加えて私はそこでようやくフォークとナイフを置いた。っていうかこういう時のプロポーズってもうちょっと後まで待つものでは?なんだか緊張してきたのでワインを口に含む。渋いなあ。昔はこの渋いのがダメでワインは全然飲めなかった。
「私……」
口にしたものの何を言えばいいかわからなくなって黙る。お肉に添えられた名前のよくわからない葉っぱを一瞬見て、それからまた前を向く。輝さんなら、すぐにわかるんだろうな。その輝さんは焦りもせずに優しい目で私を見ていた。ずっと、そうだ。輝さんは昔からふとした時にこの優しい目で私のことを見る。ずっと待っていてくれたのかもしれない。私がまだまだ先と思っていた間もずっと。
「輝さんのこと、好き」
「うん」
「だから、私と結婚してくれる……?」
輝さんの肘ががくっと折れてテーブルに潰れて「……さっき俺から頼んだのに……」と呻くように非難された。
「だって……うんって頷くだけじゃ嫌だったんだもん……」
輝さんはよいしょとまた肘を立てて「そうだよな……そういうとこだよ……」と呆れながらも「ぜひ結婚してください」と私の言葉に返事をくれた。呆れた声だけど優しくて、そうだこれがずっと私が好きだった輝さんだとようやく実感して少し泣きそうになった。
輝さんの後ろに窓があって、そこから見えるお庭にはオレンジの灯りが吊るされていてとても綺麗。これでようやく渡せるなって輝さんの声にはっとして目線を輝さんに戻すとオレンジの光が反射して目を刺した。まばゆい、なんて人生で初めて使った。まばゆい光、その向こうで輝さんが「このデザイン絶対好きだろうなって思って」と笑う。
輝さんが好きなのはもうちょっと大人っぽくてシンプルで洗練されてるデザインのやつだと知っている。でも今、輝さんの手の中で光るのは私が好きで憧れてたオーソドックスで昔からあるようなトップに石が1つ立体的にあしらわれたものだった。輝さんの、そういうところが大好き。半泣きの私に、輝さんはそっと手を伸ばして「俺も名前のそういうところが好きだよ」と言った。
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