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「あれ?3人とも早いね」
部室に入れば、来ていた葵と天馬と信介の3人がいつかの雷門の試合をみていた。
「芥ちゃん!おはよう!」
「去年のホーリーロード決勝の試合だよ!」
「へぇ」と相槌をしながら画面に目線を向ける。
神童の神のタクトによって雷門のパスが繋がっていく?そしてゴール眼前の神童にボールが渡り、そのまま必殺シュートを放ち、ゴールが決まる。
「すごいね!キャプテン大活躍じゃん!」
「うん、すごいシュートだね」
「でもこれもフィフスセクターの指示通りなのよね」
葵のその言葉に天馬と信介は顔を曇らせる。
「俺、去年の決勝戦すごい真剣に見てたんだ」
「どっちのチームも本気を出しているように見えるけど」
「当然よ、本気だもの」
その言葉に振り返れば顧問の音無がいた。
「本気の試合だからこそ、神童くんも神のタクトを使ったし、フォルテシモを打ったのよ」
そして試合終了のホイッスルが鳴る。
2-1で雷門の負けだ。
リモコンを片手に音無は続ける。
「負けちゃったけど、あの試合はみんな充実していたと思う。フィフスセクターが管理する試合の中にも時にはこういう全力を出せるものもあるのよ」
ホーリーロードのような大舞台でこうなったのは珍しいケースだけど、と続ける。
「…で、どうしてみんな去年の試合を見ていたの?」
「もうすぐホーリーロードだから、去年どうだったかなって見直してたんです」
「ここなら前の、いっぱいあるし!」
「ああ!おはよう!はやいな、お前たち」
何かを片手に抱えた円堂が元気よく挨拶する
「お前たちだけか?」
「はい」
「昨日、みんな河川敷に来てくれたのにね」
「みんなじゃないけど…」
「うん、キャプテンとか来なかったね」
「なぁに、すぐ集まるよ」
円堂は壁にポスターを貼る。
ホーリーロード。少年サッカーの全国大会で、フィフスセクターの聖帝を決める選挙も行われている。
去年の試合に指示がなかったのは聖帝選挙でイシドシュウジが聖帝になることが決まっていたからだろう。
「ホーリーロード…」
「俺がお前たちの歳の頃はフットボールフロンティアって大会だった」
円堂がそう語っていると部室のドアが開かれる音に振り向く。そちらを見れば制服姿の三国と浜野が入ってきた。
「おはようございます」
「おはざーす」
「おはようございます!」
「良かったね、天馬」
「うん!」
続々と先輩たちは部室に来ているようだったが、倉間と神童の2人だけは来なかった。
皆の朝練の途中、いち早く神童に気付いた茜が即座にカメラを取りだす。
「神サマ登場」
「茜、はや!」
グラウンドの皆や円堂も気付いたらしく、上を向けばユニフォーム姿の神童がグラウンドを見ていた。しかし練習に参加する気は無いのか降りてくる様子は無い。
駆け寄る天馬を無視して神童はそのまま去っていってしまった。
雷門がサッカー強豪校ということもあってか、キャプテンである神童がサッカー部を辞めるという噂はあっという間に広がった。
もちろんその噂は私たち、マネージャーの耳にも届き、校舎近くのベンチで集まってた。
とくに神童のファンである茜の顔は明るくない。
「はぁ、神サマ、辞めちゃうんだ…」
「あぁ、やっぱりですか。神童くんらしいかもしれませんが」
茜の言葉に隣のベンチで落ち込んだ表情をする速水に水鳥が「暗い!」と怒鳴れば、驚いた速水が情けない声を上げながら飛び退く。
「ビックリするじゃないですかぁ」
「お前らそれでも雷門イレブンか!」
怒鳴りつける水鳥に臆せず、浜野は「内申書に響いたらやばいもんね」と呑気に返す。
「そゆこと、ホーリーロードも近いしな」
「ちゅーか、上手くやりゃ、去年の決勝戦みたいに普通に試合できるかもよ」
「あればよかったよな」
去年の試合に思いを馳せる2人に気に食わなかったのか怒りを収めることは無い。
「お前らほんと後ろ向き!1年みたいにサッカー超好き!とか無いわけ?」
「ありませーん」
「速水ぃ!」
思わず拳を握りしめた水鳥を茜が止める。
「水鳥ちゃん、鉄拳禁止」
「でも、こいつら許せねーじゃん!」
隣で騒ぐ2年生たちを横目に葵が呟く。
「サッカー部どうなっちゃうんだろうね」
「…円堂監督は退部届を受理しないと思うけど」
「でも、神童先輩が部活に来る気が無いんじゃ、受理してもしなくても、意味は無いんじゃないかな」
一理ある。その言葉に返事はできなかった。
周りの空気に飲まれたのか、暗い表情の葵に、どうしたものか、と思考を巡らせるが、いいアイデアなど思いつかない。
「大丈夫とは言えないけど、私たちには私たちのできることをしよう」
「芥ちゃん…そうだね!私たちの仕事はみんなをサポートすることだもんね!」
隣からはお前らもアイツらを見習えよ、と言った野次といやですよ、と否定的な応答が繰り返されていた。
「でもちょっと意外だったかも」
「なにが?」
「芥ちゃんがそういうこと言うの」
「あはは、私も柄じゃないと思った」