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少し早めに学校に向かえば、剣城はサッカー棟の近くの陰で涼んでいた。残念ながら同輩である天馬達はまだ来ていないことは分かっていたので、剣城に駆け寄る。

「剣城くん、ちゃんと来たんだ」
「雷門の監視のためだ」
「正直、今日はサボると思ってたよ」
「サボるわけないだろ」

シードである剣城がここにいることこそが、今回の試合に勝敗指示が出されているという、何よりの証拠だ。
この役割を与えられている以上、勝敗指示の出ている試合で間違いを起こす訳にはいかないだろう。

先輩たちの様子を見るに、残念ながらそういうことを企むような人はいなさそうだけど。

「でも、学生の本業は学業なので、今日くらいお仕事休んでもいいと思うけど」
「残念ながら俺の本業がシードだ」
「そ〜ですか」

返事をしつつ棟の中に入れば、霧野に声をかけられる。霧野は比較的親切で温厚な先輩だが、挨拶や仕事以外で話しかけてくるのは初めてかもしれない。

「春咲か、おはよう」
「おはようございます」
「アイツと仲良いんだな」

誰のことを言っているのか分からず、変な声が漏れてしまったが、先程話しているのを見られたのだとすれば、アイツとはつまり。

「ほら、剣城と話してただろ」

霧野の声色から察するに探られてるというよりかは、純粋な興味によるものだと判断して、答えることにした。

「私は天馬くんたちと違って、剣城くんとは同じクラスですから。話すきっかけなんて沢山ありますよ」
「ふぅん……。って、ああ、いや!別にこれは、剣城と君のことを探ってるとかじゃなくてだな。えぇと……」

なんでもない事のように告げれば、霧野は少し慌てふためくように手を振る。彼の紡ぐ、しどろもどろに脈絡のない言葉に、思わず笑みがこぼれた。

「別に構いませんよ!剣城くん、基本的にシャイだから、クラスでもあんな態度ですし」
「いや、あれはもうシャイとかそういう次元の問題では無い気がするが……」

いや、私もあれをシャイの一言でまとめるのはなんか間違ってた気がするけど。

「じゃあコミュニケーションに難があるとか」
「それはそれでどうかと思うが!?」
「リラックス出来ました?」

そう伝えれば霧野はバツが悪そうに頬をかいた。

「皆さん、昨日から暗い顔されてたので」
「大丈夫だ。心配をかけさせたな」
「あの……」
「なんだ?」
「いえ。……試合、応援してますね!」

天馬達には勝敗指示のことを伝えないんですか?という質問は出来なかった。

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