8


栄都学園のスタジアムには多くの観客が集まっている。

「流石は栄都学園。調子がいいだけあってすごい応援ね」
「こんな人の中で試合するんだ」

初試合という事もあってか、天馬の表情は相変わらず固い。
観客の数に圧倒される天馬に水鳥は気合いを叩き込むように、思い切り背中を叩く。

「天馬!それが緊張ってもんだ!」
「はい!頑張ります!」

水鳥の応援に気合いが入ったのか、両手を握りしめて答える。
剣城といえば、近くで試合を見る気もないのか、着くやいなや、観客席の方へ向かってしまった。

「芥ちゃん、観客席の方見てどうしたの?」
「え?……いや、沢山お客さんいるな〜って思っただけ!」
「私たちが出場する訳じゃないけど、これだけ人が沢山見ていると緊張しちゃうよね」
「そうだね!天馬くんたち、大丈夫かな」

そんな雑談をしていれば背中に重みがのしかかる。
視線を向ければ水鳥が私と葵の肩を抱いて元気よく励ましてくる。

「ま、天馬なら大丈夫だろ!」
「そうですよね!」
「だからあたし達はアイツらがちゃんと試合出来るように応援とサポートをしてやろうぜ!」
「はい!」

ストレッチをしている皆に水鳥は強い眼差しを向ける。

「水鳥さんってそういうところありますよね」
「そういうとこってどういう意味だ!」

そう言って水鳥は髪をかき乱すように強い力で撫でてくる。

「いたた、元気が貰えるって意味ですよ!」

各々試合の準備をする。
試合時間になれば、神童の掛け声とともに皆、フィールドにかけて行った。

雷門は順調にパスを繋げて互角な攻防が続いていたが、栄都にボールを奪われる。
葵や水鳥が応援しているが、雷門の素早い連携について行くのが精一杯なのかボールに触れる様子はない。

浜野にパスを催促した神童がボールはボールを奪われ、そのまま栄都の選手はゴール前までパスを繋いでいき、シュートを撃つ。

「バーニングキャッチ!」

三国は腕に炎を纏い、ボールを地面に押さえつける。
力は拮抗しているように見えたが、覚悟を決めた表情を浮かべれば、ボールと共に吹き飛ばされ、ゴールが決まる。
俯く雷門イレブンの表情は伺えない。
天馬が先輩たちに声をかけるが、表情は晴れない。
音無の表情も暗いままだ。

「……」
「天馬ー!信助ー!頑張れー!」
「お前の底力見せてやれ!」

元気に応援する2人と共に応援することは出来なかった。

栄都に一点奪われてからというものの、雷門の調子は戻らず、あっという間に追加点を入れられてしまう。

本当に調子が悪いわけではなく、調子が悪いふりをしているだけだ。
流石の天馬も先輩たちのプレイを違和感をおぼえたようで困惑した表情のままフィールドに立っている。
前半の終わるホイッスルの音と共に、暗い表情の雷門イレブンがフィールドから出ていく。

意気消沈。かける言葉も思いつかないが、そもそも、何を言ったところで無意味だろう。
お疲れ様ですと声をかけながら、葵達と分担してドリンクを手渡していく。
沈黙が雷門を支配する。あんな弱小サッカー部に苦戦しているフリをしなければならないのだから不満がないわけが無い。

だからこそ、フィフスセクターの内情を知っている私はこの人たちの表情を見て見ぬふりしてはいけない。
この人たちの悔しさを、苦しみを、目に焼き付けなければならない。


「どうしてあんなプレイをするんですか!」

天馬のその訴えに全員が振り返る。

「三国先輩も、車田先輩も、天城先輩も、南沢先輩も、霧野先輩も、倉間先輩も、速水先輩も、浜野先輩も!」
「ちょっと、天馬くん!」

誰も彼も、悔しそうに食いしばる。
マズイと思い、咄嗟に声をかけるが、天馬は無視して神童へ詰め寄る。

「キャプテン!なんで本気で戦わないんですか!」
「お、おい……天馬、いきなり何言い出すんだよ」
「先輩たちが本気を出せば栄都学園の守りなんて簡単に崩せるじゃないですか!なのに、なんで!なんで本気を出さないんですか!」

その言葉に神童は悔しさで肩を震わせる。
当然だ。一番悔しいのはキャプテンを任されているのに何も出来ない神童自身なのだから。

「先輩たちは負けてもいいんですか!?」
「いいのよ!負けても」

この状況を見かねた音無は沈んだ表情で事実を告げた。

「天馬くんたちにはまだ言ってなかったけど」

その声はとても苦しそうで、本当にこの人はサッカーが好きなのだと理解して、耳を塞ぎたくなった。

「この試合は、初めから3-0で雷門が負けることが決まってるの」


こっそりとベンチを抜け出して剣城の元へ向かう。
雷門が勝敗指示を破るわけないと高を括っているのか、どこか余裕そうな表情を浮かべていた。

「何もしなくていいの?」
「…松風のことか。アレを聞いた後に何をするって言うんだ」
「数日の付き合いだけど、分かるよ」
「何が」
「天馬くんはすっごいサッカーバカだってこと。きっと諦めないよ」

prev  back vita  next