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後半が始まる。皆、フィールドに入り、試合の準備をしていたが、天馬はベンチで考え込んでいた。
水鳥に促されたことで、ようやくフィールドに戻る姿は先程の事実から立ち直れていないようにも見えた。

「あいつ、大丈夫かよ」
「分からないけど……、でも」

入部試験の時だって、天馬は唯一諦めなかった。
一緒に合格した信助ですら、神童の本気のプレイに圧倒されて諦めかけていたというのに、天馬は寧ろ、絶対に合格しようと、諦めずにボールを求めてグラウンドを駆け巡っていた。

「天馬くんならきっと大丈夫ですよ」

だからこそ、こんなところで終わるところは見たくない。半分くらいは、そうであって欲しいと願う、自分の願望だ。

私がそんなことを言うのが予想外だったのか、水鳥はキョトンとした後、ニヤリと笑う。

「へぇ。そういうの、葵が言うと思ってたよ。意外だな、アンタがそんなこと言うの」
「そうですか?」
「いいね、アタシ、そういうの嫌いじゃないよ」

そう答えた水鳥はホイッスルの音ともに天馬を応援するために立ち上がり拳に力を入れる。
しかし天馬は動かなかった。
天馬が動かなくとも、試合が止まることは無い。
ボールを持った栄都の選手が天馬の方へドリブルをする。それでも天馬は動かない。そのまま天馬は栄都の選手の激しいタックル受け、そのまま尻もちをついてしまった。

「天馬!」
「監督!一度、天馬くんをベンチの外に出した方が」
「いや、このままでいい」
「でも、監督!」

久遠は天馬を見定めるようにグラウンドを眺める。
栄都のキャプテンの指示でパスが繋がり、一点を取られた。
これで勝敗指示の3-0になった。

キックオフと共に倉間からボールが奪われ、勢い付いたように見える栄都学園のオフェンスに雷門は為す術ない振りを続ける。
そして天馬はようやく顔を上げて走り出し、ボールを奪った。

「キャプテン!」

ボールは大きく逸れて栄都の選手にわたる。
周りの声も気にせず、天馬は何度もボールに食らいつき、何度もパスを繋げようとする。
その姿に感化された信助が栄都のボールをカットし、天馬へパスを繋げ、神童に向かって放つ。

そしてついに神童がダイレクトシュートした。
真っ直ぐとゴールへ向かい、ゴールキーパーはボールと共にゴールネットへたたきこまれた。

「だから何もしなくていいか聞いたのに」

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