会うは別れの出会い
「死がなにか、知りたかったんでしょ?」
女は微笑み、私に拳銃を投げた。弧を描くそれを危うげに捕まえると、女は足を組んで目を細める。
楽しんでいることは明らかで、視界に浮かんでいる彼はやめろと叫んでいる。
死人に口は無い。そもそも彼は死んでいるのか?それすら私には分からない。本当に死人だったとしたら、きける口などないのではないか?
命の危機にすらそんな思考ばかりしてしまって、気付けなかっただけで、本当に私は気が狂っていたのかもしれない。
何もかも、バカバカしい。思考を停めた。
死んだところで、何一つ変わらない。変わらずに明日がやってくるんだから。
︎
すごくよくない夢を見た気がする。
うん、これは昨日軽い怪奇現象に立ち会ったのが原因だと思う。
当の本人はきょとんとした顔でこちらを見ているが。
そんなかんやで幽霊の景くんとの生活が始まった。
いや、聞きたいのそういうことじゃないか。
幻覚なのかそうでないのか、私の気が狂っているのか、理由は分からないが、視界には重力を無視して浮かぶ景くんが見える。
触ることは出来ないが、会話は出来る。今のところ試してみて出来たのはそれくらいだ。ちなみにポルターガイスト的なあれこれは出来なかった。
とまぁ、いろいろ試しつつ現状について考えたけど、気が狂ってるだとか幻覚って線は薄いと思う。
どういうわけか生前(そもそも彼が死んだのかも私には分からないが)、どうしても料理のレシピは教えられない、とかなんとか、適当な理由をつけて断られてきた。彼の料理の味は知っているが、レシピは知らない私は彼の料理を作ることが出来なかった。
しかしここにいる幽霊(?)の景くんは料理の最中、こうしたほうがいい、とかここはこうしよう、とアドバイスと茶々いれをして、そして出来たのがこのビーフシチュー。
彼の家にお世話になった際に得意料理だから、とよくご馳走になったものだ。
驚くことに彼の作ったものとよく味が似ていて、思わず涙が出た。そのときの彼の顔といったら、いや、これは彼の名誉にかけて胸に秘めておくことにしようと思う。
もう何年も食べていないから思い出補正ということもあるかもしれないが。
ここから見える星空が一番好きなんだ。
まだ誰にも教えてないから、他の人には内緒だよ。
ヒロくんはそう言ってこの場所を教えてくれた。
幼い私は嬉しくって小指を差し出して、もちろん、と返した。
ここは多くの自然に囲まれて、空がよく見える。
悩み事がある時はいつもここに来た。
空に比べればそんなことはちっぽけなことだと思えるから、この場所のことが大好きだった。
今日は別に嫌なことがあった訳じゃないけど、何となく、昔のことが懐かしくなって訪れただけだ。
何も無い。そう、今日も何も無く一日が終わる。今日は終わって明日が来る。何も変わらない。
もう帰ろう。そう思い、振り返る。
そして首を傾げた。誰かがいる。
暗闇からは判別し難いが、その人影は自分よりも一回り大きく、男性のような見える。
人影は微動だにせず、そこに立ち尽くしていた。
不審者かもしれない。無視して帰ろう。
けれど、この道は一本道だから、そのまま帰ろうとするならばその人影とすれ違う。
どうしようか。自分の安否と睡眠時間、どちらが大切かと聞かれたらどちらも大切だ。
一分ほど考えて、天秤は睡眠に傾いた。だって明日に支障が出たら困る。
さっさと帰って寝よう。そしたらそんなことさっさと忘れるし、こんなこと覚えていたって仕方ない。帰ろう。
一歩。人影は上を見ている。
二歩。そこでようやく私の存在に気づいたようだった。こちら顔を向ける。顔はよく見えない。
三歩。人影に、心臓が、無かった。
ぽっかりと空いている。
そこだけ空洞になったように、無いのだ。
思わず後退る。心臓がない?そんなはずない。なら、どうしてこの人はこちらを向いた?
心臓無しで、人間が動くはずないだろう。
ホラー映画でもないんだから、そんなのない。そもそもここは心霊スポットでもなんでもないんだから出てこられたら困る。
両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。いやだ。こわい。夜更けにこんな場所に来るんじゃなかった。
足音はこちらに近づいてくる。
どうしたらいい。この瞬間にも足音は大きくなるばかりで、いくら思考すれど、対処方法なんて思い浮かばない。今持ってるのは携帯と財布くらいで、魔よけの塩なんて持ってるわけない。
足音が止まる。
その事実が、私の前まで来たことを示していた。
「_______薄?」
どこか迷子のような声色をしていた。
だからかもしれない。反射で顔を上げてしまった。
やはり、心臓は無い。
幽霊かもしれない。でも呪い殺されるくらいなら顔くらい拝んで、私が死んでしまったら呪い返してやるのも悪くないかもしれない。
いや、よくもないんだけど。
意を決して顔を見る。
「…景くん?」
その顔は、幼馴染にあまりにもそっくりで、目を見開いた。