何も始まらない


若干下ネタあり
ただの会話文

︎ ✧

「ごめんくださーい。」

玄関のチャイムを鳴らし、扉越しに声をかける。するとバタバタとこちらに向かってくる複数の足音と共に騒がしい話し声が聞こえてきた。

「ババァの声じゃないってことはきっとお客さんアルな。」
「神楽ちゃん、鼻くそほじらないの。」
「大丈夫ヨ。私が鼻くそほじくっても美少女って事実に変わりないアル。」
「いやそういう問題じゃないからね。これからお客さん出迎えるのにそれは問題あるから。ほらティッシュで拭いて。」

「それにしても、こんな時に銀さんは一体どこにいったの?」
「あのバカなら朝イチで玉打ちに行ったヨ」
「玉打ちに行ったって何!?
 銀さんが朝っぱらからバッティングセンターに行くわけないし、パチンコのことだよね!?
 誤魔化そうとしてんの!?全然誤魔化せてないから!もうそれ普通にパチンコって言っていいから!」
「新八ィ、レディの気遣いをなんだと思ってるネ。そもそも玉もボールもパチピーコも大して変わんねーヨ」
「変なところに伏字を付けるな!変わるから!意味が完全に変わっちゃうから!」
「そして銀ちゃんがマダオって事実も変わんねーアル。」
「いや、まあ…。それは変わらないだろうけどさ。」

そんな賑やかな会話が終わると、ゴホン、と咳払いの音が聞こえた。
いや、そんな気を取り直したように咳払いをしても全部筒抜けなんだけど。ダダ漏れだったからね。不満玄関まで垂れ流されてるからね。
てかこれどんな顔すればいいのかな。
そんな心境の私を他所にガラリと音を立てて戸が開かれた。
その先には眼鏡をかけた人の良さそうな少年と赤いチャイナ服を纏った色白の美少女がいた。

「すみません、お待たせしました。」
「依頼アルか!」

少年は少し申し訳なさそうに、少女は目を輝かせて問うてきた。

「社長さんはいる?」

そう問いかければ、少年は気まずそうに目を逸らし、少女は憤慨したように腕を組んだ。
少女の態度を見るに、普段からアレ・・に対しての鬱憤が溜まってるのが目に見える。

「ウチのマダオはパチンコ行ったヨ。だから話なら私とこの眼鏡が聞くアル。」
「一々あのマダオのことをバカ正直に説明しなくていいから!というか誰が眼鏡だ!」

少女に怒鳴った後、少年はこちらの視線に気が付き、気まずそうに頭を下げた。

「…っとすみません。うちに依頼ですか?」
「ん、まあ。でも聞いた様子じゃ彼はいないんだよね。出直した方がいいかな?」
「心配いらないネ!」
「そうですよ。わざわざ御足労いただくのも申し訳ないですし、僕らで良ければ先にお話聞きますよ。」
「なら、お願いしようかな。」

そこでようやく右手の荷物のことを思い出し、紙袋の中から箱を取りだした。

「ああ、そうだ。これ、良かったら二人で食べてね。」

少年は少し困った表情を浮かる。

「いやいや、そんな悪いですよ。」
「ううん、依頼の前金ってことで、受け取って。」
「なら遠慮するのも失礼アル!お姉さん、ありがとナ!」

そう言って包装紙に包まれた箱を受け取った少女は目を輝かせる。少年は、こら、と少女の頭を優しく叩くと、これは後でね。と言って箱を取り上げた。
ケチ、と文句はいうものの少女もわかっているのか奪い返すような真似はしなかった。

「久しぶりのお客さんヨ!歓迎してやるからそこに座って話聞かせるヨロシ」

少女は機嫌良さそうに中のソファまで案内して私を座らせる。しばらく待っていれば少年が湯呑みを乗せたトレーを居間に運んできた。

「なんでそんなに神楽ちゃんがふんぞり返ってるのかな!?
 ええと、お待たせしました。お茶で大丈夫でしたか?」
「うん、ありがとう。」
「僕はここの従業員の志村新八と言います。それで、こちらが」
「神楽アル!」
「元気なのはいいことだね。私は薄」
「それで、本日はどう言ったご用件で?」

「私、元々こっちに住んでいたんだけど、訳あって宇宙にいてね。落ち着いたからこっちに戻ってこようと思って。」
「へぇ、就職とかですか?」
「いいや、人に会いに江戸に来たんだ。」
「人探しアルか?歌舞伎町のことならこの歌舞伎町の女王である私に任せて欲しいアル!」
「いやまだ依頼を完全に受けてないからね。そういうことは依頼内容を全部聞いてからにしてね」

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