其の小説は無題で有る


小難しい表現をするよりも単刀直入に聞いてしまったほうが自分らしいと思ったので、小難しい挨拶は書きません。
元気にしていますか?
此方は何時もと変わらず過ごしています。
先日、孤児院に赴いた際に蝶子という女の子と知り合いました。
彼女の顔は私に瓜二つだったので血縁関係を疑った私は検査をしてみることにしました。
驚かないで聞いて欲しいのですが、その結果、彼女と私は姉妹だということが分かりました。詰り、彼女は貴方の妹、ということでもあります。
貴方の彼女の歳は同じなので妹、というよりも、双子、或いは腹違いの兄妹という表現が正しいのかもしれません。
何はともあれ、時間がある時にでも彼女と一緒に貴方に会いに行こうと思います。
仕事の事も有るでしょうから、無理にとは言いませんが、いつもの喫茶店でお待ちしています。

◾︎◾︎◾︎◾︎より





蝶子には姉がいる。
彼女曰く、蝶子と姉は血の繋がった姉妹で、姉にはもう1人弟______詰り、自分にとっては兄_____がいるらしい。
らしい、というのは私は兄とはあったことは無く、そもそも過去の記憶がすっからかんなのでそれも事実なのか判断する術は無い。
ただ、私の姉を名乗る女は施設に私を迎えに来た時、驚いた顔もせず、私に微笑みかけて、私の姉だと告げた。
多分、私がそこにいると知っていたのだろう。だとしたら何故、今更迎えに来たのか、とか色々考えてしまう。
院長と話をつけた姉は今日から私と一緒に暮らすのよ、なんて言って私に手を差し出した。

家族。多分、ずっと求めていたものなんだと思う。この人が何を求めて私を連れて帰ろうとするのかは全く理解できなかったが、今はそれでいいと思った。
だって考えるのは苦手だし。
そうして私は彼女の手を取った。

彼女はオンボロアパートに住んでいて、滅多に会うことは無い。
帰ってきていない訳ではなく、単純に仕事で忙しいらしく、毎晩夜中に帰宅して朝早くに出ていってしまう。
だというのに毎日私のご飯はちゃんと冷蔵庫の中に入っているのだから一体いつ休んでいるのか不思議で仕方がない。

珍しく彼女が夕方に帰ってきたことがあった。こんなに忙しいのに、どうして私を引き取ったのか聞いてみた。

「だって、家族、欲しかったんでしょ?」
「どうして知っているの?」
「私は姉ですから。私がずっと会いに来なかったこと、薄情だと思ってる?」

喉に何かが詰まったように返答が出なかった。
私の様子に彼女は気まずそうに頬をかく。

「悪いとは思ってるの。
 でも、悲しむことは少ない方がいい。
 私はこの通り毎日忙しくて、なんなら死と隣り合わせでいつ死ぬか分からない身だから、寂しさで麻痺していたら、最初から無いものが無くなっても、悲しいなんて思わないでしょう」
「どういうこと?」
「いずれ分かる時がくる。そうなれば、きっとあなたは私を恨むでしょうけど、それでも、自分が望むことをしなさい。自分の欲望に沿って、あなたのやりたいことをやりなさい。」

そう言って私の手を両手で優しく包む。
ひんやりと冷たい手だ。

「それがなんであれ、私はあなたを恨むことはないから」





それから数年が経って、私はとある舞台会場のスタッフとしてアルバイトをしていた。

「今日、福沢さんがくるって本当!」
「本当にあの人のこと好きね。ええ、だからきっと大丈夫よ」

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