尋ね人

 人を探しているのです、とその男はいかにも哀れらしい素振りで私に告げた。「どこかでこんな人を見ていませんか」と言う彼の話を聞くことには、その人はまるで白百合のような女で、果てしなく清廉であり、それでいて翌日目を覚ましたら露になって消えているのではと思われるほど儚い相貌をしているのだと言う。
「一度見ればきっとお分かりになると思うんです」
 彼女の髪は黒檀の絹糸だと男は言い、その目鼻立ちがいかに美しいか、いかに可憐で優しい性格をしているか、その声がどれほど魅惑に満ちたものかということを切々と熱をこめて語り、失踪したときの格好なんかも丁寧に話してくれ、「どうでしょう、知りませんか」と目にいっぱいの涙を浮かべて尋ねてきた。私はそれに下手な嘘をつく気分にはなれず、また彼の熱意に動かされてもいたので、まず私の記憶には心当たりがないということを話して聞かせ、
「けど私で良ければ探すのをお手伝いしましょうか」
と持ち掛けた。幸い印刷所に伝手もあるから、人探しのビラを刷ってもらいましょう、地方に知り合いもあるから彼らにも聞いてみましょうと私が話すと、彼はやっと落ち着いて、ありがとう、ありがとう、と繰り返した。
 その顔には先程よりも希望があり、陰鬱な憐憫の影は随分と薄くなっていた。





20.カフネ
髪/白百合/探す

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