瞬きの隙に

 まるでさめない夢の中にいるようだった。私はぼんやりと遠くを——否、彼女の姿を眺めていた。窓辺にかけられた風鈴が、りぃん、と涼やかな音色を奏でる。窓から入ってきた夏の香りのする風が、私の髪をなぶっていく。
 「暑いね」と私に微笑みかける彼女の、長い絹糸のような黒髪がさらりと揺れる。私は彼女にうんと頷いて、ミューズのような神秘的な美しさに目を細めた。
「何か買ってこようか」
 それは彼女の神々しさから逃げるための言葉だった。




17.瞬きの隙に
風鈴/揺れる/さめない

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