ささめく声

 わぁっと不意に歓声が上がった。隣を歩いていた君が立ち止まり、「わ、見て見て」と上空を指差す。どぉん、どぉん、という大きな音に彼女が見て欲しがっているものの正体を何となく察しながら、それでも素直に顔を上げると、濃紺の夜空いっぱいに花火が打ち上がっていた。
 「綺麗だねえ」と囁くように君が漏らす。その横顔の輪郭は、色とりどりの閃光に彩られ、瞳の内にも花火が映り込んできらきらと輝いている。
 美しい、と思った。
 花火を綺麗だと見上げる彼女のかんばせが、この夏見たものの中でいっとう美しい、そんな気がしたのだ。僕はしばらくの間、君が花火に夢中なのをいいことに、その横顔を見つめていた。周りの人々も、君も、みな空を見上げているのに、僕だけが地上にあってなお眩しい、その横顔に視線を落としていた。




23.ささめく声
花火/横顔/視線を落とす

top