道化師の本懐

 享楽宴の催しへ向かう車が往来にずらりと列を成していた。瀟洒なレースがあしらわれたバッスルドレスに身を包み、白粉を塗った女がそこから降りてきて、細いヒールを鳴らしながら館へ吸い込まれていく。開け放たれた出窓から漏れ聞こえる哄笑には、上流階級の高貴さと、俗なアルコールの音色が混じっている。
 キィ、と小さく軋んだ音を立てるフレンチドアをくぐってすぐの大広間では、オーケストラの演奏に合わせて男女が身を寄せステップを踏んでいた。
 ――と、そこへ古めかしい銅製のメガホンを携えたアルルカンがやってきて、演舞前の口説を開始した。聞き慣れない奇妙な訛りのある呼び掛けが、赤銅を経て拡声される。「哀れな道化、――」どこからかそんな笑いが漏れ、それは瞬く間に場を支配する。嫌な笑いである。
 貴族たちの嘲笑と軽蔑とを一身に受け、アルルカンはにっこりと――なおも朗らかに笑みを浮かべた。悲哀と、いつくしみに満ちた微笑みであった。



8.嘻笑な人生を
拡声/楽宴/車

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