終末論争

 終末の夜だよと彼は笑った。「今日が最後の夜さ、きみもぼくも」朗々とした調子である。「嬉しいの?」と尋ねると、彼は一瞬動作を止めて、そしてからりと高く喉を鳴らす。
「きみにはそう見えるんだね」「とっても」
 私は指先が悴むほど恐ろしくてたまらないのに、目の前の少年は鈴を転がすように笑っていた。本当にちっとも怖くないのか、それとも気が触れてしまったのか。後者だと言われた方がずっと納得できる。突然告げられた終焉が恐ろしくないなどと、そんなことは、……
「信じられない」
 かちん、と上下の歯が鳴った。
「ぼくにはきみの方が信じられないよ」
 どうしてと、詮無いことを口にした私の両目から、塩辛い水滴が頬を滑り落ちる。少年の表情にかすかな動揺が走った。「あぁ、ごめんね」
「それでもやっぱりわからないや」
 彼はやはり笑っていた。今にも泣きだしてしまいそうな、かなしい微笑みだった。



12.掬ってよ、君から
落ちる/終末/指先

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