独善の獣

 その女の目は、紛れもなく捕食者のそれだった。ギラついた両眼の周りを暗いアイシャドウがぐるりと囲んでいる。間接照明に照らされ、ぬらついたように光る紅色のリップからは、蠱惑的な獣性がちらちらと顔を覗かせていた。
 男は、飢えた肉食獣のごとき野性に思わずくちびるをわななかせた。緊張――あるいは情欲――のためにごくりと喉を上下させた男に、女は凍てつくような声を投げた。
「どうしてこんな事になっているのか、貴方、解ってないのね」
 語尾が半音上がっているのに気付けるかどうか、それさえ危ぶまれるほどの迫力と確信を持った問い掛けに、男は一度縦に首を振って、……そして慌てて横へ振り直した。
 彼は分かっている。この女が苛烈な獣性を剥き出しにしているのは、鋭い双眸の奥に滲むジェラシー――つまり嫉妬が故のことなのだと、分かっているのだ。
「そう、」と女はこともなげに呟いた。
「でも解っていないのでしょう。違う?」
 すぅ、と女の目が細まる。男も同じように目を伏せて、それきり何も答えなかった。



14.今夜、お前だけ
ジェラシー/捕食/紅色

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