バッカじゃないの
「月島くんに近づかないでよ!」
「そーよ!迷惑してるってわかんないの!」

体育館裏から声がした。

唐突に、バスケ部の他校との練習試合が入るとのことでバレー部の部活が休みになったと顧問に言われた。休みなら音楽の聞きあさりでもするか、と思えばマネージャーもどきなあいつもつまりは暇なわけで、「待ってて!」と叫ばれた。
返事をする前に荷物を取りに駆けていったそいつに、呆然としてその場に立ち尽くす。十分経って、遅いと思うのと同時になんで待っているのか疑問に思う。

(帰るか…)

そう思って足を正門に向ければ聞こえる声。体育館裏から聞こえる声にため息をつく。
あーめんどくさ。だから女の子って嫌なんだよ。
関わるのなんて以ての外、いくら自分のことだろうと関わって庇うなんて冗談じゃない。

「なんでわかるの?あなたたち」

それなのに。聞こえてきた声はよくしるあいつのもの。僕は校内に戻ろうとしていたその足をその場に留めた。

「なんでって、そんなの月島くん見てればわかるじゃない!」
「なんで蛍くんって呼ばないの?私も月島なのに」
「っ月島くんが嫌がってるのわからないの?!!」
「嫌がってる?だって蛍くん、もう蛍でいいって言ってくれたよ?」
「それは!あなたがしつこくしたからでしょう!」
「でも蛍くん、私のこと嫌だっていわないよ。蛍くん嫌なことは嫌って言うもん」
「そんなの!」
「蛍くんはこういうお節介の方が嫌いだと思うよ」

その言葉の直後、バシャンと水が地面に叩きつけられるような音と人が走り去るような音がした。音が離れて行き、聞こえなくなる。
どうやら、僕がいたのとは別の方に逃げて行ったらしい。なんだか面倒くさいことにはならなかったらしい(鉢合わせとか死んでもいやだ)、と息を吐き出して、体育館裏を覗く。

「…なにしてんの?」
「わ、蛍くん」

目を丸くするそいつにもう一度問いかければ、「間違ってホースから水かぶっちゃったの!ちょっと体操服に着替えてくるね!」と笑って返事をしてまた走って行く。
なんでホースなんだとか、バケツはどうするんだとか、僕はまだ待つのかとか、色々思うけど。とりあえず、名前ってやっぱり馬鹿なんだと思うよ。


あの子とその他大勢
(なんとなくケーキでも奢ってやろうと思った)
katharsis