温かい気持ち
「なあ、遊びにいかへん?」

 ∬

誘ったのなんてホント気まぐれやったし、受験も近うなってきとるさかい断られると思っててんけど…

「来てくれると思ってへんかったわ」

待ち合わせ場所にすでに待っとった彼女に遅くなってすまん、と謝る。いつも通りの眼鏡と髪型。同系色でまとめられた服は彼女によく似合うとる。

「どっか行きたいとこある?」
「最後に本屋に寄りたいだけだから、他はないかな」
「わかった。じゃ、いこか」

ワシが歩き出せば、なんの躊躇いもなく隣を歩く彼女。普通は後ろちょこまか着いてくるもんやろうけど、やっぱ変わってるな。まあ、変に距離あるよりは全然ええけど。自己完結して、いつものようにどうでもいい会話を織り交ぜながら足を進める。
歩きながらなんて会話したことなかったから今まで気付かへんかったけど、割と小さいんやな。歩幅の違いに、気付かれない程度少しスピードを落とす。

「つか、寒ないん?」

手袋は愚か、マフラーもしてない彼女に問いかければ、ああと頷いた。

「寒いですよ。でもまあ我慢できなくはないんで」
「なんで持ってきいへんの」
「なくしちゃって」

あはは、と笑う彼女に思わず眉間に皺が寄る。あーそういやこの子虐められとんのやっけ。最近は虐めも見なくなってきたような気がしたけど、そうでもないんか。俺ははあ、と小さくため息をついて自分の首に巻いていたマフラーを外す。そのまま彼女に巻いてやれば、きょとんとした表情になった。

「なに?」
「今吉くん寒くないの」
「寒いわ阿呆」
「じゃ、いいのに」
「ワシの所為で風邪ひかれても困るんでの、大人しく巻かれとき」

そういえば、ふふと笑ってありがとうと言う彼女。なんや柄でもないことしてもうたけど、まあええか。寒いはずなのになんでか温かかった。



温かい気持ち
 (この正体が何かはまだ気付かない)
katharsis