知りたくなかった
面倒臭いことになったと思うた。
なんやこないだ二人で出かけてたところをクラスメイトに見られてたらしい。話しかけずにご丁寧に写メまで撮っとった。馬鹿とちゃうん。
「今吉、なにアイツと付き合ってんの?」
「付き合うてへんよー」
「なんで今吉くん、苗字さんなんかといたの?暗くない?」
「別に普通やったで。話したら返事くれるから誤解すんなや」
「つか今吉余裕かよ!いいなー天才様は」
「そない言っとる暇あったら勉強しいやー」
適当な誤魔化しも効果があったのかなかったのか。いやあらへんわ。加速していく苗字に対しての罵倒、中傷。これだから馬鹿は手に負えんのや。
「今吉くん可哀想ーどうせ#白鳥#に無理やりでしょ?」
「あーそういえばこの間のバスケの大会!!苗字来てたよ!私見たもん」
「まじで!ありえねーー今吉も面倒臭い奴に好かれたな」
「うっぜー馬路死なねえかなアイツ」
「今吉くんその内ストーカーされちゃったりして!?」
「うっわキッモ」
「ありえねー馬路死ねよ」
「気をつけろよ今吉ー」
「つか今吉くん優しいからって調子乗りすぎー」
妄想で勝手に人の心配すんなや。調子のっとんのはお前らや、お前らに心配されるほどワシは弱ないで。常識的に考えてみいや、#白鳥#に襲われても痛おも痒くもないわ。つか180の男襲うてどないな頭しとんねん。#白鳥#はお前らみとう頭悪うない。むしろええっちゅうの。
離してくれへんかなー。こんな調子やったら苗字と暫く会われへんな。第二図書館を特定されるなんてことになったら洒落にならんし。あー馬路うざいわ。
なんてワシの考えが伝わるわけもなく、ワシは暫くこいつ等の変な妄想に付き合うことになった。ふざけんなや。
「今吉ー後輩からお呼び出しー」
イライラしとってしゃあなくなってきたとこに、そんな救いみたいな声が入る。誰や知らんけど感謝するわ。ワシはクラスメイトにすまんな、と思ってもない言葉を掛けながら声の方へ向こうた。教室を出れば、そこにはワシより10センチ弱デカい男。
なんや珍しいこともあるもんやのお…。
「青峰珍しいやん。どないした?」
「…ちょっと、聞きてーことあって」
「ふうん…ほなちょっと出よか」
「ああ」
敬語使わへんやっちゃなあ。大人なってやっていけるんかいな。
と青峰がおった所為か知らんけど、気が付けば目の前は体育館。バスケットボールの弾む音とバッシュのスキール音が体育館の外まで聞こえとる。寒いのに元気なことや、と思うたけどこの間までワシもここに居ったんやな。
「なあ」
ぼーっとしてたらしい。体育館を見たまま止まったワシに青峰が声をかける。
「んー?なんや」
「……」
「黙っとってもわからんで。部活辞める方法以外やったら何でも聞くけど、なんや?」
まあコイツに限ってそんなことないやろけど。とそんな俺の言葉にいつもやったら違えよ、と突っかかってくるはずのコイツが突っかかってこん。不審な気持ちを覚えたがそれもコイツの次の言葉で無くなった。
「名前が虐められてるって…マジなのか?」
知りたくなかった
(君が見に来ていたのはきっと)