私の必死さの理由
二年生になった私。相変わらず彼とクラスは違う。その事にほっとしながら、私は毎日を過ごしていた。
けれど、体育館で顔をあわせることは相変わらずで。私はその度に彼との才能の差を痛感していた。

彼は勿論、私も中一の頃から試合には出させてもらっていた。試合に出る嬉しさの反面。私は試合の度に、彼のトスを思い出していた。

今のトスがもっと正確だったならば。
もっと早かったならば。
彼のトスだったならば、

あのトス、あのブロック、あのアタック。
勝った試合ですらも、満足のいくプレーはなくて。私はただひたすらに、彼の背中を見て、追って。息を乱さない彼が腹立たしくて。そして流れる汗もなにもかも、彼に及ばない自分が一番腹立たしかった。



そんなある日。とある人に出会った。男子バレー部元キャプテンだったその人。天才である彼がサーブやレシーブを真似たその人。

「及川さんっ!」

思わず名前を呼べば、その人は驚いた様子もなく。その整った顔に笑みを浮かべた。

「なあに?名前ちゃん」

及川さんが私なんかの名前を知っていたことに少しばかり驚いた。私はたかが女子バレー部の一部員に過ぎないのに。なんでこの人は私を知っているのだろう。

「名前ちゃん、いつも遅くまで残ってたでしょ?知ってたよ。一年に上手ですごく努力家な子が入ってきたって三年のバレー部員の中じゃ有名だった」

疑問が顔に出ていたのだろう。彼は私にそう言った。
でもその言葉を嬉しいと感じることはできなかった。
上手く、ない。私は全然上手くない。彼のように正確なトスをあげられない。彼のように素早くボールの下に入れない。彼のように華麗にレシーブできないのだから。
だからこそ、私は彼に頼んだ。なりふりなんて構わない。私は上手くなりたい。

「私にバレー、教えてください」



キミにはわからない
(私の必死さの理由なんて)

katharsis