なんて偶然
あの日から数日。
寝ても醒めてもさえさん。
あのエレベーターの中のにおいは間違いなくさえさん。
「あー、さえさんに会いたい」
そんなつぶやきはこの東京の街中じゃ誰にも聞こえないし、誰にも届きやしない。
つらいなー。
とあるペットショップに着いた。
実家の猫達は元気そうだ。
こっちでも飼いたいところだが、世話なんてしてあげれない。
まだ自分に余裕がない。
『あら、樹くん?』
「さえさん、、、」
ペットショップの前で猫を眺めていたら自動ドアから大きな袋を抱えて出てきたさえさん。
「荷物持ちましょうか?」
『えー、ほんまー?お願いしたいー!』
うち、近くやねん
なんて言われたらねぇ。
ずっと片思いしてる人の家にあがれるチャンスなんじゃね?
お近付きのチャンスだな?
これを掴まないでどうすんだよ。
なーんて思いながら袋を2つとも受け取る。
「それも持ちましょうか?」
『重いの2つも持たせてんのに軽いのまで持たせるとかそんなひどい女に見えるー?』
いままでどんな女と付き合ってきてんねん。
なんて笑いながら二の腕をナチュラルにつんつんしてくるさえさん。
そんな遊んでるように見えますか?と言いたいところですが、女の子と本気で付き合ったことありませんだなんて言える訳もなく。
笑って濁すしかない。
案内されたマンションはぼちぼちお高そう。
『あ、あがっていってー?コーヒーとプリンなら出せるけど食べれる?』
よろこんで!!!
心の中では大きなガッツポーズをするけど、そんなの恥ずかしいからできる訳もなく。
あ、はい。なんて控えめなお返事だけしておく。
『ただいまー。』
玄関に入るとなんと、猫が3匹!!!!
「か、かわいい、、、」
『あ、猫好きー?招いておいて忘れてたけど、うちの家族やねん。アレルギーとかやったら最低な招き方やんな。』
あはは〜。と笑いながら足元に猫が擦り寄ってるのは無視してリビングまで歩くさえさん。邪魔やな〜。と言いつつも踏まないようにゆっくり歩いていく。
あー、昔もこんな感じでおれらのことあしらうような素振りもありつつ、ペースはおれらに合わせて歩いてたなー。
あ、猫と同じなの?おれら?
『この子ら兄妹やねんけどなー。男の子やねん。みんな。名前がちくわ、たまご、つみれ。おでんの具やねん。』
雑種の猫達が餌皿の前に整列してまっている。
名前のセンスはさておき、とにかくかわいい。
『せっかくお皿に名前書いてもそれ通りに並ばへんねん。』
仲良く餌を食べ始める3匹。
「写真撮っていいですか?」
『えーよー。』
そこから実家の猫の話をはじめた。
『うちの実家も5匹猫おんねん!』
昔は知らなかったさえさんを知るようになった。
もっと知りたいなー。
ソファでたまごとゴロゴロしてたら帰りたくなくなってきた。
「おれもたまごと暮らしたい」
『飼ってあげようか?』
さえさんが御手洗に行ってると思ってたまごにつぶやいたらソファの真後ろにさえさん。
『樹くんならうちで可愛がってあげれるで?』
「え?!」
『3匹にゃんこいたら4匹目が人だろうが猫だろうが変わらへんやろ。4匹目欲しかったんだよねー。樹くん猫に似てるし。』
え、ペットにされちゃうかんじ?
それはそれであんなことやこんなことも???
『昔から樹くんのこと可愛いなって思ってたよー。さすがに未成年に手は出せないからねー。』
「おれも、可愛いなって思ってました」
『ふーん。うちの子になる?』
「よろこんで。」
ここから新しい生活がはじまるようになる。
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