嫌いなはず

※if高校生


 教室の後ろで輪になって駄弁っていると、いつの間にか話題は"灰谷竜胆について"に移り代わっていた。

 可愛いだの足が長いだのと喋るみんなに胃がムカムカしてきて、みっともないのを隠しもせず深いため息を吐くと、滑らかに進んでいた会話がパタリと止まり、くだらない不満なんて飲み込んでおけばよかったと気が重くなった。そのまま空気にでもなれたらよかったのだけど、仲の良いグループだし、ここで遠慮したら遠慮したで「さっきの名前なんだったの?」なんて面倒なことになりかねない。

 結局私を囲む好奇の目に晒されれば心の内を吐露するのには時間もかからず、その女の話を私の前でしないでほしいと正直に話してみた。
 ガムを噛みながら様子を伺うと、周りの子は声を揃えて「わかる〜!」なんて同意を示したのだから、さっきの反省も生かさずにまたため息をつくところだった。今の今まで褒めてたくせに。

「学校来ない不良だと思ったら名前の隣になった瞬間来はじめたよね」
「うける、ストーカー?」
「それ説マジである。名前と話す時だけ吃っててキモくない?てかこの前コンビニのとこで男ボコしてて邪魔だったし」
「うーわ、邪魔。シンプルに喧嘩好きの女って無理なんだけど」

 再び話が軌道に乗ると、灰谷の愚痴がそりゃもう出るわ出るわ。だけどそっか、みんなやっぱウザいと思ってるんだ。
 なんて気が抜けるはずもなく、彼女達の愚痴に重みがないのを見抜いた私は曖昧に笑ってささくれを剥いた。
 知ってるんだよ、みんなは灰谷が私にくっついてくるから「名前も大変だよね、やかましいよね」くらいの物差しで言ってるって。そんなんじゃなくて、私は灰谷竜胆の何から何まで大嫌いなんだけどな。

 教師が来ると私たちは蜘蛛の子を散らすように席に着いた。どうやら今朝のHRは席替えから始まるらしい。なんてふざけた高校なんだろうかと思う反面、私たち不真面目ちゃんにはピッタリな催しだと席のクジを引き、ようやく隣の席の女から解放される日が来たと胸を膨らます。灰谷も視界から消え、最高峰と言っても過言ではない1番後ろの席へと移動し、有頂天もいいとこといった具合だ。

「はっ?」
「よっしゃ……!……あ、あー……また席隣だな、名前ちゃんよろしく」
「え、24番なの?」
「そ!隣だよな?」

 "18"と書かれた数字を完膚なきまでに握り潰して涙を堪えた。これでまた一ヶ月灰谷の隣だなんて、こんなにも明けない夜があるだろうか。地団駄を踏んで「席替え反対!」と叫び、私の方を見てクスクス笑っている友人達を窓から突き落とし、生まれたことすらなかったことにしたい。

 コンプレックスを刺激してくる灰谷の顔なんて全くもって見たくないのに、彼女は惜しげも無くこちらに顔を向けてくるのだから朝から気分は最悪だ。
 どこが嫌って言ったってキリがないけど、綺麗な歯並びとか、根元から出て高いくせ、主張のしない薄くシャープな鼻とか、くいっとあがった口角、流行りの形に整えられた眉。

「うん」

 チーク要らずの赤い頬、影を入れなくても存在する涙袋、拘り抜いたであろうデザインのマツエク。

「こ、こんな何回も隣だと、名前ちゃんとばっか仲良くなっちゃうな、はは」
「そうかな」

 ブリーチした筈の髪はクラスの誰より艶やかで、指先には長さ出しとパーツ多めの、見てるだけで幸せになるゴテゴテネイル。体毛も薄くて、足も細くて、でも胸はあって、おまけに愛嬌も良くて。

「うざ……」

 灰谷がいる反対側にかかったバックから筆箱を取り出す際に、毒ガスを抜くようにプシュッと零す。苦しい、苦しいきらい大嫌い。私をこんなに惨めにさせて、さぞかし楽しいだろうね。

「あ、わり、教科書見せてくんねーかな」
「……また?」
「んと、そう、ごめん。姉貴と喧嘩した時に捨てられちゃって」

 泳ぐ瞳に疑いをかける。だけど嘘か本当かは実際どうでも良くて、ただ私の了承もなしに机を寄せてくる図々しさが嫌だった。可愛いから断られたことないんでしょ。拒否される怖さを知らないんでしょ。

「わり、助かる」
「……教科書閉じちゃうからこっち側に筆箱とか置いといて」
「あー、筆箱持ってきてねぇから手で抑えとくわ」
「はぁ?忘れたの」
「や、いらねーかなって」
「……頭悪すぎ」
「は、ははっ、だよな、オレバカだよなぁ」

 罵られて何が楽しいんだか、私の言葉に笑う灰谷。意味わかんない、ブスにバカって言われたところで笑える的な?
 こんな被害妄想を繰り広げる私は、やっぱり彼女と合いっこないんだろう。早急に席を変えてもらいたいが不当な理由じゃ上手くいかないし、担任に席を把握されてから無理やり移動すれば反省文待ったナシ。この授業時間だけがこれからの一ヶ月の行方を決める戦いになるだろう。善でも悪でもとにかく急げ。ここは大人しく、前にいる根暗な子に頼んでみるのが無難と見た。

「ねーね、その席好き?」
「え、えっと……わたしですか……」
「うん」

 そりゃそーだろ、を既のところで飲み込んで、交渉が上手く行くようニッコリ頷く。隣の灰谷は何故か黙って凝視してくるのだから不気味なことこの上ない。

「私最近目が悪くなっちゃって、黒板見えないから席交換できないかな?ごめんね、金欠だからメガネも買えなくて……」
「そ、そうなんだ、大変だよね……。えと、わたし名前さんの席でも大丈夫だから……!」
「ありがとう!助かる!」
「チッ……断れよ……」
「えっ……?あの、ごめんなさいっ」
「ん?なにが?」
「いえ、なんにもないです……」

 想像以上に上手くいったみたいで、冷えていた心臓に再び血が巡る感覚がする。なんだか彼女から怯えられている気もしたが、内気な子からすれば集団でうるさくする私は怖く見えるだろうし仕方がない。寧ろこの時ばかりはそんな見方をされていることに感謝した。
 なぜか灰谷にも必要以上に怯えてるように見えるが、不良全般無理な子だろうか、そうならこのクラスは酷く生きづらそうだ。

 それじゃあ休み時間にでも交換してしまおうという結果に話がつき、後は残り時間を睡眠に使うだけとなった。
 腕を組み頭を伏せ五分弱。イマイチ寝れないが、傍から見たら完全熟睡の図が出来上がっているに違いない。暇だ、と目を瞑りながらぐだぐだ考えていると、灰谷が前の席の子に話しかけたようだった。

「なーオマエ席交換しろよ」
「……えっ?俺?」
「そうオマエ。次の休み時間にチェンジな。名前ちゃんになんか聞かれたら、オマエが後ろの席で内職したがってたってことにすっから、口裏合わせろよ?」
「は、はいっ」
「隣の女も次から余計なことすんじゃねーぞ」
「すみません……」

 え?ちょっと整理してみようか、いや何分したってわかんないかも。灰谷は何がしたいの?意図を読み取れなさすぎて最早気味が悪い。てかオマエが前行くなら私行かないし。オマエから逃げてんだから付いてくんな。
 色々言いたくても、今顔を上げるのはなんかダサいというこの歳特有のプライドが私の邪魔をする。もういいや、取り敢えず授業終わってから考えれば……。
 途端にきた眠気に私は身を任せることにし意識を手放した。


♡♡♡


「はぁ……かわい、あーやばいこれ写メっていいかな……。う、くそ、マジで可愛い……ほっぺすべすべしてっし……。ねぇちゃんたすけて、なまえちゃんかわいすぎる……っやべ!?チャイムっ!名前ちゃん、名前ちゃん?体育始まったって、おい、起きろ?行かねーの?起きろって」
「んぁ〜……うそ、おきた……なに……」
「起きた?おはよ」
「……は?なんでアンタだけなの」

 起床早々腹立つ挨拶を無視して至極真っ当な疑問を投げかける。ギラッギラのケータイがこっちに向けられてたのも不快だし、なんなら灰谷の椅子がめっちゃ近くて蹴飛ばしたい。てかあれ、ほんとにみんなどこいった。

「体育はじまるから、起こそうとして」
「あ!やばい遅刻した!?死ぬ!」
「ま、まって!着替えてねーまま行くなよ!」

 彼女に指摘されて行動するのは癪だが、完全にパニクっている私に冷静なソレはよく効いた。ああもうやだ、時間がないからここで着替えるとして、スタイルの良いコイツに体を見られるなんて。てかなんで起きてたはずのオマエまで制服のままなの。

 せっせかと脱いで体操着を掴むと、灰谷が「わーっ!」と叫んだせいで冷や汗がドバドバ出た。いきなり脅かしてどういうつもりなんだか、今はそんなことしてる場合じゃないのに。

「なに!?」
「や、はやく服着ろよっ!だめだろ、そんなの……!タンクトップとか着ろよふつうにっ!」
「はぁ?」

 私の胸が醜いとでも言いたいのか。こんな暑い日に無駄なものを重ねる必要もないし、そんな騒がれるほどの体でもない、と思いたい。ダメだろって何?失礼にもほどがある。
 ああまた傷が開いてきた。私の体だってコイツと比べたらバカみたいに汚いんだ。体育する気もとっくにない。突然襲いかかってきた嫌悪感に為す術なく飲み込まれると、引いてあった席に座るのが精一杯になって益々落ち込んだ。

「大丈夫か……?」
「うるさい、もーほっといて。ほんとやだ」
「え、あ……ごめんな、でも」
「灰谷は死にたいなんて思ったことないんでしょ、そんな見た目で生まれてきて」

 本人を前にして言うことじゃないって、わかってたのに。全部投げ出してしまった脳からのストッパーは羽より軽く、口を縫い塞ぐ権能も持たない。
 いいな、羨ましいな、妬ましいな。何言ってんだなんて目で見てくるその瞳が欲しい。何したってよれないそのファンデをポンっと買える財力が妬ましい。短く折ったスカートから覗く、綺麗な腿を交換してみたい。

「まぁ死にたいとか思ったことねーけど。最近は特に…… 名前ちゃん、とはなせるから、毎日たのしいし……学校行くのすらしあわせで……あっ、今のなし!ちが、べつに!ちげーし……っ!そんななるほど好きとかじゃっ」
「……え、なんて?」
「う、うあ……なにも、ないです……」

 しばらくの間、二人きりだろうと信じて疑いもしなかった空間に、意外な登場人物が現れるのはそれから三秒あとのこと。

「うっわ、まだ居んのかよオマエら。不良だな〜」
「わぁっ!」
「えっ、ねーちゃん……」

 ガラッと音を立てて開いたドアに肩が跳ねる。そのまま首を捻るとそこには姉の灰谷蘭がいた。怖い。顔からサッと血の気が引いていく。この学校で一番苦手、いや世界一苦手かもしれない。それほどこの灰谷蘭という女のあの、私を責めるように見る目付きが嫌だった。
 多分、私が灰谷竜胆を嫌ってるのを知ってるんだと思う。そりゃいい気はしないよなと思いつつも、彼女の前でクシャクシャになったプライドを守るには捻くれるしかなかった。灰谷竜胆を初めて見た時から、圧倒的な敗北を感じていたから。

「なぁんか竜胆のメールがうるっせぇから来てみれば?まさかの二人でサボってっし。オマエまだアレ渡せてねーの?」
「いやっ、オレのタイミングとかあるし、名前ちゃん寝てたし…!」
「フーン、授業始まっても起こさねぇのは一周まわって親切って言わねーよ?呑気に鬼かわいいとか写メ送ってきてる場合か」

 私を挟んで何か喋っているとこ悪いが、この場から逃げたくて逃げたくて仕方がない──のだけども話題が話題だ。完全に私の名前が出ているせいで、知らん顔でグラウンドへ駆け出すこともできない。

 チラチラ見てくる灰谷に、オマエの姉追い払えよと視線をやるが、何を勘違いしたのか「え、なにっ、どした?」と弾んだ声で返された。ちょっと喋んないで灰谷蘭にバレるから!!

「…………ほんっと気乗りしねぇけどさぁ、カワイイ妹に免じて手伝ってやるよ。竜胆早く出せ」
「あ、うん……。あの、名前ちゃん、これ貰ってほしくて」
「は?」
「あ?」

 灰谷がそう言って袋を取り出すと、私の好きなブランド名がプリントされたソレを押し付けてきた。何がなんだか、な状態な私の間抜けな声は、蘭の威圧的な、というよりもう威嚇と言った方がわかりやすい声に掻き消される。コワイ。

「前、たまたま聞こえてきて。これ欲しいみたいな。そんで、買ってきたって言うか……」
「え、え?どゆこと、私に?」
「そりゃそーだろ、テメー以外誰がいんだよ」

 ええ本当にその通りですと渋々荷物を受け取って。さっきのクラスメートとのやり取りは、同じ状況でもこんなに刺々しいものではなかったのに。やっぱり言葉を飲み込むことって大事。灰谷蘭は反面教師の鏡でいて、学年主任よりもヤな奴だ。
 それはまあどうでもいいとして、このプレゼントはどうしよう。

「……姉貴ちょっとは考えて喋ってよ。はぁ、ごめんな名前ちゃん、急に出してきたらびっくりするよな。でも色とかも間違ってねーはずだからちょっと見てみてくれる?」
「あ、うん……。あっ、これ」

 確かに欲しいって言ってたやつ。でもどうして?コイツの前では言ってないのに。周りのみんなも適当に話を聞いてただけで、カラー番号まで覚えくれてる子なんて、いるはずないのに。
 今日は不思議なことの連続で、時間が酷く早く感じる。そわそわしながら私のリアクションを待つ灰谷に、二人きりなら八つ当たりができたのに。

「で?色あってんのかよ」
「はい……」
「そっか……!よかったぁ、姉貴もありがとな」
「しょーがねぇなオマエは」

 こんな高いコスメを貰ってしまっても私には返せるものが何もない。どんな心境でこれをくれたのかもわからない。持て余した金を貧乏女にでも使ってやろうとか?そういうお慈悲?

「嬉しそーだなァ名前ちゃん」
「えっ?」
「ほ、ほんと……?喜んでくれた?」
「ほら見ろよちょー笑ってんぞ」

 その瞬間全身が金縛りに合ったように硬直し、蘭の言いたいことを理解する。要は全力で喜べ、と。だって笑ってんぞとか言われてるけど、私今1ミリも笑ってなかったもん。

「うれしい、ありがとう」
「よかったな、欲しかったモンをな〜んもせずに貰えて。こんなサプライズ見たことねぇわ」
「ほ、ほんとにうれしいっ!灰谷ありがとうっ」
「全然っ、いいから、もっと他に欲しいもんあったら言って……?」

 なんでか高揚している灰谷に、やり過ごせたかと姉を一瞥。しかしどうやらまだ不服らしく、三つ編みを片手で弄りながら、つまんねぇこと言ってんじゃねぇと言わんばかりに見下ろしてくる。なんでよ、何が正解なの。

「これすっげぇ並んで買ったもんなぁ。ご丁寧にメッセージカードまで書いてよ」
「あっ、おい、それ言うなよ……!」

 妹が姉にプリプリ怒っている間に脹ら脛を蹴られた私は、はいはいメッセージカードね、見ればいいんでしょ。と四角い厚紙を抜き取る。この暴力女は満足するまでここにいる気なんだろうか。

 カードにはこう書いてあった。「この前宿題の範囲、教えてくれてありがとう。助かった。」うわぁ、不良娘のくせに字が可愛くて破きたい。というか宿題の範囲って?あんま記憶にない、というか、こんなしょうもないことでお礼くれたの何?マジでいつの話のだよ。しかもオマエが宿題出してるとことか見たことないし。

「……えと、まえメールで教えてくれたから……」
「いつの……っじゃない、覚えてる、あれね!」
「そ、そっか……!へへ……」
「竜胆名前ちゃんからのメール見てずーっとニヤニヤしてたもんなぁ」

 視線が私の行動をまた指定する。まだ理不尽な要求に応えないといけないの?早く終わってよ、なんならこれ灰谷に返品してもいいから、そんな恩着せがましいのやめてもらえる?そう口に出せたら良かったな。出したら歯が3本くらい無くなるだろうけど。

「本当にありがとうね」
「うん……なんか照れるな」
「…………チッ、そぉいや今日水曜じゃね?」
「そーだよ、姉貴なんかあった?」
「いや、そしたら今日映画安い日だよなって。…………あ、竜胆そと見てみ」
「え?」

 何この会話?と黙りながらも怪しんでいたら、案の定首根っこを捕まれ5000円札をポッケにぶち込まれた。え?お駄賃?なわけないよね、だってこの人私のこと嫌ってるもん。

「なんもねーじゃん、どした?」
「や、適当」
「はァ?」
「それより名前ちゃんが観たい映画あるらしいんだわ。これのお礼もしたいつってるし」

 嫌な予感を更に超える嫌な未来が見えてきてしまった。ああ嘘、私灰谷と映画観に行かなきゃいけないの?自分のお金じゃないとしたって苦痛すぎる。

「えっ?や、いや!いいって……!名前ちゃんが観たいって映画は、気になるけどさ……」
「良かったなァ名前ちゃん。竜胆行ってくれるって」
「よかったです。灰谷ありがとう」
「これから仲良くすんだから、竜胆って呼んだ方が良くねぇ?」
「竜胆ありがとう」
「えっ!?いやっ……!こちらこそ?てか、へへ……名前呼び、嬉しい」

 ようやく納得のものを得られたような灰谷蘭は、最後に「恋愛映画にしねーと殺す」と耳元で囁いて消えていった。なんて悪魔だ。私が恋愛映画を大の苦手としていることまでお見通し──なわけはないんだろうけど、灰谷の好きなジャンルなんだろうか。

「あの、名前……ちゃん」
「もー呼び捨てでいいよ、はぁ」
「うんっ、名前……!」
「なに」
「映画、何観てぇの?何時からのやつ?どうせならいい席で観ようぜ」
「あーっ、えと、恋愛系ならなんでもいいんだよね」
「マジか!オレもそっち系好き!」

 キラキラ光る目を更に輝かせて、趣味が合うなと微笑まれる。嫌だ、自分の顔を隠したくなってきた。こんな美女と街中歩くとか拷問以外の何物でもない。
 廊下から響く多数の足音に、やっと授業が終わったのかと安堵して、次の授業に備えることにした。どちらにせよ灰谷は隣の席だから逃げられることもなく、余韻には気まずさがあったが。机の横に新たにかかった化粧品の袋は、主張が笑えるくらいに激しくて、みんな私に何か聞きたそうにしていた。

 そういえば灰谷が言っていたメールってどんなんだっけ。思い立ったが吉日、というとちょっと使い方が違う気もするけど、つまんない授業を過ごすには丁度いい暇つぶしだしとケータイを開く。するとつい最近に3件のやり取りがあった。これだ。

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今日の宿題何ページかわかるか?(>人<)
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p36
──────
ありがとう!優しいな(^_^)♡
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「え?」

 これだけ?私日本語すら話してないじゃん。温度差も酷いな、こんなんにあんな金かけたプレゼント送ってきたの?何目的で?そりゃ灰谷蘭も嫌だわこんな塩女。
 ついつい横を振り向いて、何考えてんのこの人、と軽蔑混じりの視線をやると、灰谷は私と同じようにしてあの日のメールを見返していた。

「はぁ……♡」

 友人間では絶対に含まれないなにかを孕んだ声が、嫌に耳に残る。やめて、遊びに行く前に気づきたくない、そんなことあるわけない。完璧な灰谷が欠点塗れな私を良く思うはずが、ない。あってほしくない。
 今すぐにでも確証を得たくて、笑いながら、でもほんの少し震えた声のまま、私は灰谷をからかってみた。

「私のことどんだけ好きなの」

 頬杖をついて、オマエも笑えよと呆れ気味に言うと、灰谷の顔はみるみる赤らんでいって、私は信じたくない事実に目を瞑る間もなく全てを察してしまった。

「……趣味わる」

 私なんかを好きなのも、恋愛映画が好きなのも、全部。

「わ、るくたって、すきだし……っ」

 純粋な気持ちで見惚れてしまった私に、逃げ切れる未来はあるんだろうか。一ヶ月後の席替えまで耐えられる気がしない。

2022.3.30

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