※夢主がパウバートの叔母/流血表現/酷め
「ふたりには内緒にできる?……いい子。おばさんはね、パウちゃんが1番大好きなんだよ」
僕の大好きな名前叔母さんは、ずーっとずっと、僕のことを1番に愛してくれていた。みんなの前ではバレないように、父さんみたいに厳しく接してくるけど、叔母さんの優しさは僕だけが知ってるから、それでいいと思ってる。
父さんや兄さん、姉さんにも叱られて、叔母さんにだって、出来損ないと軽蔑される日もある。だけどそんな日の夜も、叔母さんの部屋にこっそりと向かうと、叔母さんは必ず僕の足音に気がついて、部屋に迎え入れてくれた。それがこの家で荒んだ僕の心を、癒してくれている。
でも、上の2匹は僕が1番愛されてるってことを知らないから、たまに調子に乗りすぎてる時があって少し不快だ。今だって叔母さんと話していたら、姉さんが苛立ちを隠しもしないでこっちに向かってくるじゃないか。叔母さんの手を取って、逃避行でもしたくなってくる。
「はあ……」
ため息が漏れるのも仕方ない。僕から何回叔母さんを奪えば気が済むんだろう。僕の話が1番おもしろいし、落ち着くって、叔母さんも言ってたんだから、邪魔しないでほしいよ。なんて姉さんに直接言えたら良かったんだけど。
「どいてパウバート。名前叔母さんとこれからショッピングなの」
「えっ、でも」
それでも叔母さんは僕を選ぶはず、と視線を合わせようとする。だけど、なぜか合わなくて。叔母さんはカップのソーサーをぼんやり眺めて、爪でなぞっているだけ。僕のことが大事だからここに残る、とは言ってくれない。自分の紅茶に映った僕の耳は、無意識にペタっと伏せていて、少し情けなかった。
いや、でももしかしたら、叔母さんは僕に期待してくれてるのかも。そうだ、だとしたらこの冷たい態度にも納得がいく。試されてるんだ。だって叔母さんは、姉さんに機会を譲ってあげて、楽しんでねって笑ってあげられる、優しい僕のことが1番好きなんだから。
「わ、わかったよ。はは、ごめん。それじゃあふたりとも楽しんで。お土産楽しみしてるね、なんて、あはは……じょ、冗談だよ……。あっ、名前叔母さん、良かったら荷物、玄関まで……」
どうしてもギリギリまで一緒にいたくて、焦って早口で荷物持ちを申し出ようとした。叔母さんにこれすら拒否されたら、少し悲しいから、できるだけ剽軽に装って。すると言い終わる前に、兄さんの怒鳴り声が響いた。
「パウバート!さっきの仕事にミスがあったぞ!来い!」
叔母さんの目は見れなかった。
それから数日、姉さんはすっごく機嫌が良くて、僕にすら文句を言わない日が続いていた。でもその優しさはきっと、僕を大事な弟として見ているからこその思いやりじゃない。更に下の存在だと認識した故に向けられる優しさな気がして、胸がざわついた。あの日、ふたりで何を話したんだろう。 叔母さんに確かめないといけないことができた。
「でもまあ、あと3時間はここかなぁ」
郵便物の山はパッと見、そのくらい処理する時間がかかりそうだ。とりあえず、手前にまとめた叔母さん宛ての手紙を読んでから、渡すものだけついでに持っていこう。馴れ馴れしい奴からのは燃やすしかないかなぁ。お見合いの手紙なんて以ての外だよ。しかもこんな劣等種が名前叔母さんとだって。笑える。
「んーっ!疲れたぁ……。今日は小さい企業からのが多かったなぁ」
肩を回すとバキバキ音が鳴る。心做しか目が重いし、間違えて父さん宛ての手紙を燃やしかけたせいで、未だに心臓がバクバクいってるし。なんかもう散々だったけど、大量の仕事を終えた後の爽快感は、叔母さんの部屋へ向かう足取りを軽くした。
角を曲がると、長い廊下の奥にある、名前叔母さんの部屋のドアが目に入る。暗殺業が何より板に着く叔母さんは、毎回僕の足音に気がつくとあっちからドアを開けてくれるから、今まで1度たりとも、僕があのドアをノックしたことがない。最初は何か隠してるんじゃ、と子どもながらに勘ぐったけど、今では優しい笑みで迎え入れてもらえることに安らぎを感じて、廊下を歩くことすら楽しく思えた。
「……あれ?叔母さん、いないの……?」
普段なら出てくるはずの彼女が来ない。ここまで近づいてもドアが開かないなんて、初めてだ。
だんだんと進んでいく足は遅くなるのに、心拍数は上がっていく。最悪なことを考えてしまって、まだ叔母さんのことを確認していないのに、助けを呼んでしまいそうだった。どうか殺されていませんように、なんて馬鹿げたことまで祈って。
そして妙な不安を胸に、ドアノブを握る手前まで足を進めると、誰かの言い合いをする声が聞こえた。心の中で謝って、ドアに耳をくっつける。
「私がいちばんって言ってたじゃない!どういうことなの名前叔母さんっ」
「2番の間違いだろ。ほら、ねえ、叔母さんのお気に入りは誰だっけ?叔母さんのキャトリックが1番可愛いって、そう言ってくれたよね……?」
「そんなこと言ったら私だって!キティちゃんのこと、1番愛してるって!」
顔が沸騰したように熱くなって、鋭い爪を出さずにはいられなくて、ドアの向こうに声をかけるのも忘れて、部屋に突撃して。みんなの視線が僕に集まっているけど、僕が視線を向ける相手はもちろん彼女だけ。
「ねえ名前おばっ……取り込み中よパウバート!」
「3番はお呼びじゃないんだ、出てけ!」
僕の会いたかった、大好きな、だいすきな名前叔母さんは、2人を心底面倒くさそうな目で見ていて、ああやっぱり僕が1番なんだって、一瞬で怒りが収まった。
「叔母さん、ノックもしないでごめんね?ほら、手紙が色々届いてたから持ってきたんだ」
2人は叔母さんを煩わせている一方、僕は仕事をしっかりこなしている。精々最下位決定戦でも頑張ってればいいさ。さあ、褒めて名前叔母さん。僕のことが1番なんだって、教えてあげて。
「はぁ、いつまで私の部屋で喧嘩するつもり?パウバートを見習ったらどうなの」
「そんな、だって……ごめんなさい」
「……うるさくしてごめん、名前叔母さん。ぼ、ぼくのことは嫌いにならないで」
「わ、わたしのこともっ!……あ、ちがう、あの、おやすみなさい……」
天にも登るような気持ちだった。尻尾も耳も、2人を煽るようにして、喜びを隠せず動いているのがわかる。青ざめた顔で出ていく姉さんと兄さんに、舌を出してやりたいくらいだった。だけど、そんなことより、答えはわかりきってるけど、叔母さんに確認したいことがあったんだ。
「ねえ名前叔母さんっ、僕のこと、世界で1番好き?」
「……おいでパウちゃん」
腕を広げて、僕を暖かく受け入れてくれる叔母さんの、綺麗で柔らかい毛が少し擽ったくて、でも心地良くて、なんだかそのまま溶けてしまいたいくらい幸せだった。
「へへ、ぼくも叔母さんのこと、大好きだよ……。い"ッ……!?い、いたいよッ、お、おばさんッ!」
「手紙を勝手に捨てる子は好きじゃないの」
「あ、あっ……あぁぁごめんなさいっ!ごめんなさい名前叔母さんっ!ゆるして、ゆるして、いたいよっ」
背中に回された手から出た爪が、僕の肉を抉るようにしてゆっくりと動く。こんなの血が出てもおかしくない。顔が歪んで、手にも力が入る。どんなお仕置よりも痛くて、今すぐ叔母さんを突き飛ばしたいのに、僕の体は動かない。僕が悪いことをしたんだから、きっと罰を受けないと、叔母さんに嫌われてしまう。でも、痛くていたくて、叫ばずにはいられない。
「ぐっ、うぅうッ!きらいにならないでっ、ごめんなさいッ、叔母さん、う、ううっ!ぼくが悪かったからぁッ」
「こんなことしてまだ好かれてると思ってるの?これならあの子たちのほうがマシだよ」
「うぅ、やだよッ、それだけはやだぁあっ、ぼくのこといちばんにして、お願い、叔母さん、おねがいだから、なんでもするっ名前おばさんっ……!」
必死にお願いしてると、喉から、きゅうん、と情けない音がして、自分がどうしようもなく不安になってることが嫌でもわかった。
「…………朝までに、捨てた手紙を全部もどせたら許してあげる」
「……そ、そんな、でもぼく、全部燃やし……ひっ、あ、あっごめんなさい……な、内容は覚えてる、から、ぜんぶ、新しく書くよ……っ!」
「……いちばんになりたいなら、いい子のパウちゃんはわかるかな。書き忘れていたことがひとつでもあったら」
「う、うん!もちろん!ぜったい、全部思い出して書くよ!僕にチャンスをくれてありがとうっ!い、いますぐ取りかかるからっ、叔母さんはゆっくり寝ててね、えへへ」
急いで床に垂れた血を拭いて、自室へと駆け出す。傷がジクジクと痛むけど、時間がなかった。こんな痛み、叔母さんに嫌われることと比べたらどうってことないし。そんなことより、一刻も早く叔母さんに抱かれて、パウちゃんが1番だよって言ってもらいたいんだ。