どうせなら、
まだ秋かと思っていたけれど、暦の上では冬らしい。
吐く息も白く染まっている。
「寒っ...。」
「足立さんおはようございます。今日も寒いですねー。」
ふらりと現れたのは登校中の名前ちゃんだった。
僕の格好とは正反対でマフラーにコート、手袋、黒のタイツまでしっかり履いちゃって全身防寒対策済みといったところ。
しばらくはその綺麗な足が見られないんだね。とは口が裂けても言えないけど。
「寒くないんですか?」
「寒いよ。」
「ですよね。」
彼女は首元に巻かれた黄色のマフラーに顔を埋めそう言った。
足立さんも一緒に入りますか?なんて展開はあるわけもない。
そもそもこの子は僕に好意なんて抱いてない。
よく会うから話をするだけのなんてことない顔見知りなだけだ。
「あ、そろそろ行かないと。お仕事頑張ってくださいね。」
彼女はそう告げ足早に学校へと向かっていった。
その日の夕方、沖奈で仕事をしていたときのこと。
ガラスの奥でポーズを決めるマネキンを、睨みつけるように眺めている名前ちゃんを見た。
声をかけようかと思ったけど、あまりにも悩んでいる様子だったから眺めているだけにしよう。
しかし彼女はそんなにマフラーが好きなのだろうか。あの黄色のマフラーも新品に見えたけど...。
...よく見たらあのマネキン男じゃないか?いやいや男物を好む女の子だっている。
でも名前ちゃんが男物を好むとは思えない...。
「あ」
勝手な想像をしている間に彼女は姿を消してしまった。
よくよく考えてみれば彼女は僕の何でもなく、ただの顔見知りでしかない。日頃話す機会が多いせいで勝手に勘違いしていたんだ。
僕みたいな年上の男が許容範囲なわけがない。
次の日の夕方、鮫川の河川敷で聞き込みをしていたときのこと。
「足立さん!」
背後から僕を呼ぶ声。振り返らなくてもこの声の主は名前ちゃん。ただ1人だ。
「そんなに急いでどうしたの?」
「足立さんのこと探してたんですよ...もう疲れた...。」
深く聞いてみればこの冷たい空気の中、僕を探すために走ってきたんだと彼女は言った。1回家に帰ってまた外に出てきたらしい。
「ジュネスにいると思ったらまじめに聞き込みなんてしてるし」
「いつもまじめに仕事してるんだけどなー...?」
「...どこがですか。」
息を整えながらそう話をする彼女の手元には紙袋。
この店の名前どこかで...。
「あ、昨日の!」
「え、どうして私が昨日買ったこと知ってるんですか!?」
「沖奈で買ってたやつでしょ?彼氏にあげるの?」
「場所まで...違いますよ。彼氏いませんし。」
がさがさと紙袋の中から綺麗にラッピングされた袋を取り出した。足立さんにあげるために買ったんですよ。と簡単に彼女は言うけれど、どうして僕のために...?
「毎朝寒そうだったのでどうかなー?と思って...足立さん普段黒のスーツに赤いネクタイだなーって考えてたらこのマフラー見つけたんです!」
袋から出したマフラーを広げ僕に見せつけてくる。じゃじゃーん!という効果音がぴったりだ。
僕のことを考えてこのマフラーを買ってきてくれたのか、と思うだけでただ嬉しかった。
こんな感情になったのはいつ以来だろう。
「...勝手に買ってこられてもって感じですよね。」
「僕のために買ってきてくれたんでしょ?」
「そうですけど...」
彼女の手元からマフラーを取り、さっそく首へと巻いてみる。あれ、マフラー巻くだけでこんなに暖かくなるんだっけ?
「名前ちゃん」
「は、はい!!」
「ありがと。」
「こ、こちらこそ、ありがとうございます!」
おどおどしながらそう答えた名前ちゃんの頬が赤く染まっていたのは気のせいだろうか。
その理由を知ることなはないんだけど。
どうせなら
あなたのせいだと言ってほしい。