Business card
「無理を承知でお願いがあります。」
僕の部屋で正座をし、いつになくかしこまっている彼女の姿を見ると明日は槍でも降るんじゃないかと思う。
「どうしたの突然。」
「あの、昨日テレビで見たんですけど...刑事さんも名刺持ってるんですか?」
名刺。確かに持っているけれど、名前が持っていて得するものではない。
「あるよ。僕がこの事件の担当刑事になりましたー。って被害者の家族に渡したりする場合もあるから。」
「なるほど...。」
「欲しいの?」
なぜわかった。とでも言いたげな彼女の表情。こんなこと、興味なかったら聞いてこないでしょ。
「欲しい...です。」
「ふーん。」
1枚名刺を取り出し見せつけるように彼女の顔の前へ出してみると、勢いよく飛びついてくる彼女の姿。
そう簡単に渡すわけにもいかず、名刺を彼女の身長より高い位置へと腕を伸ばし持っていけば、何としてでも手に入れたいと飛び跳ね名刺に手を伸ばしてくるその姿は、おもちゃに立ち向かってくる猫のようだ。
「くーだーさーいー。」
「じゃあ、名前がこの名刺持ってることを誰かが知ったらどうやってごまかすの?」
「最近の事件に関することで聞き込みしてきた刑事さんがもし何かあったらここまで連絡してね。って渡してくれたんだ〜。」
彼女のことだ、もしそんな状況に陥ったらこのセリフをそのまま吐いてくれることだろう。外見はなんてことないただの女子高校生だ、彼女のことを何も知らない大人ならすんなりと信じるに決まっている。
「いい子にはご褒美あげなきゃね。」
「...わぁ、ありがとうございます!」
足立透と書かれた1枚の名刺を渡せば彼女はとても嬉しそうに受け取った。何度も何度も名刺にキスをしている姿を見ると僕にはそんな回数やってくれたことないよね?と名刺にさえ嫉妬しそうになる。
「足立さん大好き!」
なんで名刺に向かって言っちゃうかなぁ....。
渡さないほうがよかったかもしれないけど、まぁいいか。