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「私たち、別れよっか。」
そう告げたのは私から。
表情を見るのが怖くて、悠くんの顔を見ることができなかった。
「俺...何かした?」
「なにも...」
「じゃあどうして?」
悠くんがそう言うのもわかる。意味もなく別れようと言われて別れられる人間なんていない。
「悠くんも私も正直忙しいじゃん。だから...悠くんの足引っ張るようなことしたくなくて...。悠くん今が大切な時期だと思うし。」
「大切って...それはスバルも同じだろ?」
「そうかもしれないけど...私みたいないつ終わるかわかんないアイドルより、先が長い悠くんはこれからも頑張ってほしいんだよ。」
「...俺はアイドルのスバルが好きだ。」
アイドルの私。
『もしかしてアイドルの桐谷スバルとしか見られてないとか?』
脳に蘇るあの人の声。
なんだ、結局あの人の言ってたことが正しかったの?
それは嫌だ。認めたくない。
「でも、ごめん。今の私には悠くんを今までみたいに好きだよって言えない。」
「本当に俺の足を引っ張りたくない。それだけが理由なのか?」
違う。それだけじゃない。
もう言っちゃっていいよね。言わないとスッキリしない気がしてきた。
「...私、悠くんよりも好きな人ができたの。私はその人のこと何も知らないけど、その人は悠くんよりずっとずっと私のことをわかってくれてる。本当に私はその人のこと何も知らないけど、アイドルの桐谷スバルも1人の人間としての桐谷スバルも愛してあげるって言ってくれた。こんなことになるなら悠くんにもっと早く言えばよかった。1人の人間としての桐谷スバルも好きになってよ。って。だから、ごめんね...。」
決して悠くんといた日々が楽しくなかったわけじゃない。むしろ楽しかった。
だけど悠くんは私にアイドルっていうフィルターをかけたままだった。
どこかでちゃんと言えばよかったのに言えずにいた私も悪い。
そんな状況だったせいで、私の中にあの人が住み着いたまま離れなくなってしまったんだ。
「...そうか。スバルが幸せになれる道を選べばいい。でも俺は、これからもスバルが好きだ。」
「...こんな形でごめんね。でも、今まで本当にありがとう。」
悠くんならこんな意志の弱い私より、もっとしっかりした人のほうがいいんだって。
これでよかった。...これでよかったんだよ。
「忘れ物ない?」
「大丈夫。それじゃあ、幸せになれよ。」
「...うん。」
歩いていく悠くんの背中を見つめ、本当にこんなやり方でよかったのかとまた考えてしまう。
世間が知ったらどう思う?
アイドルの桐谷スバルが別の男を愛したことで鳴上悠と別れただなんて知られたら...。
でも、どうせバレてないし。バレてるのあの人だけだし。
もう終わったことにクヨクヨしていてもしかたがない。
スマートフォンを指先で操作し電話をかける。
「もしもし、お願いがあるんですけど。」
正直一生使うつもりはなかったんだけどね。
この番号。