西暦20××年空座町

毎年春になると、必ず校庭の桜が満開になる。等間隔に植えられた木は、美しいピンク色に染まり、そしてその一帯にも花火なの絨毯が敷き詰められ、その美しさに人々は歓声を上げる。

花を愛で花見なんてのもを催すほどに、この日本という国にとって、『桜』という花は、縁の深いものなのだ。

しかし、桜はほんのわずかな期間に咲き誇り、そして散っていく。この美しくも儚い花が、あまりにも残酷で大嫌いだった。

現世で迎える春が当たり前になったのはいつからだろうか。
いつの間にか当たり前になった現世での生活。ここで、数え切れないほどに春を迎えてきた。

喜助さん、夜一さん、テッサイさん、雨とジン太と共に。

こんなゆっくりとした現世での暮らしに、いつしか違和感さえも感じなくなっていた。




「常盤サーン、朝ご飯ができたッスよー。」


相変わらずのんびりとした気の抜けたような喜助さんの声が、下階から聞こえる。


「常盤ー!
腹へってんだから、早くしろよー!」


相変わらずバタバタとうるさいジン太の声に、髪を結う暇もなく着替えだけ済ませて階段を駆け下りた。


「ごめんねー、いやぁいろいっ「早く座れ!」
「…はいはい。」


すでに箸を持って今にも手が出そうなジン太を、テッサイさんが押さえつけている姿を笑いながら、雨の隣に腰を下ろした。おはようと、お互いに挨拶を交わしながら。


いただきます。
喜助さんの声を合図に、ものすごい早さで、ジン太がテッサイさん特性の卵焼きに箸を突き刺した。

行儀が悪い!ペシッとジン太の手を叩けば、ものすごく嫌そうな顔をしながらも、箸を持ち直した彼が再度卵焼きに手を伸ばす。今度は、突き刺すなんてことはせずに。

「いよいよ今日っスね。」
「えぇ。」
「緊張してるンスか?」
「まさか。
何度目だと思ってんですか。
緊張なんてものは、3回目に忘れてきました。」
「そっすか。」


いまだ覚醒しきっていない頭をたたき起こすように、一気に卵焼きとご飯をかき込み、お茶で流し込む。



「そんなに慌てて。
また遅刻か常盤。」


いつの間にな背後に座っていた夜一さんの呆れたような声に、首を左右に振る。

「まだ時間はあるけど、早めに出ようと思って。」


台所のドアのところにちょこんと座る夜一さんの横を通り過ぎ、茶碗と箸をシンクに片づけると、顔と髪を整えて部屋の端においておいた黒いバッグを肩に掛け、履きなれた靴に足を入れた。


「今日は6時には帰れると思うので、何か買う物があれば。」
「では、焼き豆腐とネギ、牛肉、卵をお願いできますかな。」
「了解です。
じゃ、いってきまーす。」

テッサイさんから頼まれた材料をスマホにメモし、浦原商店のドアを開けた。


「いってらっしゃーい。」


背後から聞こえた揃いもそろった声にいまだに顔を緩ませながら、今日からまた始まる新境地とやらに密かに胸を踊らせ歩き出した。


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