今夜踊るは君かまぼろし
「嵩宮常盤です。
今年から皆さんの化学、物理を担当することになりました、よろしくお願いします。」
人生で数え切れないほど行ってきた自己紹介を難なく済ませ、ひとまず教室全体を見渡す。
そこまで荒れたクラスではなさそうだし、欠席もいない。
そしてこの豪快な担任だ。
悪いクラスではなさそうで何より。
本日から講師として働くことになったのは空座町にある公立高校。
ほかと比べてもごく普通の高等学校だ。
「はーい。先生は彼氏いるんですか?」
元気よく手を挙げた少年に、にっと笑い心の中で彼氏か…と呟いた。
「さぁ、どうかなぁ。」
「えー、気になるー!」
やたらテンションの高い彼にニンマリと笑顔を浮かべごまかしていると、視界を一瞬かすめていったオレンジ色。
え。
思わず、それを見れば窓側の一番後ろの席。
頬杖をついて興味なさげにそこに座っていた、見るもまぶしいオレンジ色の髪をした少年。
目は切れ長で、決して目つきはいいとは言えない。それに加えてあのオレンジ色の髪。
あれは自毛か?
学生、としてはあまりいい印象ではないように見える。まぁ、彼がどんな子なのか知らない私が、生徒を評価する権利なんてないのだけど。
「じゃあ、嵩宮先生には、3限の化学からついてもらうから。
アンタたち迷惑かけないよーに。以上。」
ガヤガヤしだした教室を出て行く越智先生に続き、自分も後を追って廊下にでる。
「どう?
うちのクラス。」
すれ違うざまに生徒に挨拶を返しながら、越智先生の言葉に首を傾げた。
「え?
あ…、みんないい子そうで、安心しました。」
「そう?
ならいいか。」
どこか嬉しそうに微笑んだ越智先生に、思わず目を丸くし、そしてつられるように目を細めて微笑んだ。
この人がいい人なんだ、生徒が悪い子なわけがないか。
「越智先生、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?何?」
「窓側の席のオレンジ色の髪の生徒なんですが…。」
「あー、黒崎か。」
「黒崎?」
「そ。黒崎一護。」
「…黒崎…一護。」
「それがどうかした?」
「あ、いえ。」
黒崎一護。
なにやら、不思議な子だ。
そんな初対面のはずの生徒に重なったのは、よく知った彼の笑顔だった。
似てもいない…だけど、似ていたきがした。