「進路希望だってー」

回ってきたプリントを見ながら、御幸の前の席を腰を下ろし、ひとつ後ろの席の子に、プリントを回し御幸の分は、机の隅に寄せて、私はスコアブックを覗き込んだ。


相変わらずずーっと真剣に見ているそれは、試合経過が書かれたもので、マネージャーが試合中につけてくれたものだと教えてくれた。


「御幸は卒業したらプロとか行くの?」
「あー、…分かんねぇ。」
「ふーん…。
あれ、なんか最近調子いい?」
「え?」


御幸が見つめるスコアブックを眺めながら、ぼそりと呟く。
3回打席に立って、2回は打ってるしそのうちの一回はホームラン。これって調子がいいって言っていいよね。


今年は甲子園いけんのかなぁ…、なんて不意に顔を上げて御幸を見れば、彼はいつの間にか私を見ていたようで、眼鏡の奥の真剣な瞳と重なった。


「スコアブック、読めるの?」
「え?…何で?」
「だって今調子がいいって、言っただろ?」
「言ったけど…」

それで読めるとは限らないでしょ。練習見てるのかもしれないし。

「でも、俺が練習中の時は緋色も練習だし、そもそも練習見に来たことねーだろ」
「おぉー、確かに。」
「で?もしかして、勉強なんてしてくれちゃった?」
「はぁ?自惚れるなよ。
もともと知ってたんだよ。」
「ふーん、何で?」
「…兄弟が野球やってるからね」
「え、マジ?どこで?」
「…大学」
「何処の?」
「明大」
「マジかよ!」


今までにないくらいに、目を輝かせる御幸に、ほんの少し離れて話を聞く。
つうか、こいつ野球ことになると目の色変わるな。


「吉岡何?名前は?」
「…と」
「え、聞こえねー」
「秋人だよ」
「吉岡秋人?…え、その人ドラフト候補に上がってただろ!」
「あー、そんなこともあったような…」

なかったような…って、知らんわ。


「大学で野球やってるんだな…」
「プロもいいけど、俺は選手引退した後、小学生に野球を教えたいなぁ」
「は?」
「で、教員免許とるらしい」
「マジっすか、頭脳派っすか」
「頭いいんすよ」
「…あー、大学か…」

少し考え込むように黙り込んだ御幸は、ぼんやりとスコアブックを見つめていた。