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投毒試験が終わった殿下の部屋は、数時間前とは打って変わって、しんと静まり返っていた。
ドアの衛兵は気配を消し、城全体が静かだ。おそらく殿下が休めるようにと、配慮した結果だろう。もしかしたら、ハルカ侯爵殿の配慮かもしてれない。
薬歴の記入を終えた私は、再び殿下の部屋を訪れていた。
なぜって、室長から頼まれたからだ。
「殿下が、目を覚ますまでここに残ってくれ。」
「え?なぜですか?」
「理由は教えられない。」
「……、わかりました。」
そんな会話が、解毒後に交わされた。
そして数時間後、殿下が死んだように眠る中、医者からすでに毒は抜けたと判断された。
が、それから3時間経ったが、殿下はまだ起きない。
静けさが城を包みとても静かだ。
誰もいないみたいに。
窓の外では、暗闇にしんしんと降る雪を月が照らしている。暖炉の炎が、パチパチと音を立てて燃えている。
そっと窓に近づき空を見上げると、どうやら今日は満月だったらしい。
濃紺の空に、ぽっかり浮かぶ金色の月。それは、とても神々しく神秘的に見えた。
「今夜は満月か。」
そんな声に驚いて振り返ると、ベッドの上で体を起こして座る殿下の姿が見に入った。
試験をしていたなんて思わせない姿に驚きながら、彼に近づいていく。
「どうやら生きているみたいだね。」
「えぇ、そのようですね。」
「君のおかげかな?」
「どうでしょうか。」
そして、彼のそばで立ち止まると、そっと腕を取り動脈を触知する。
脈は変わりなく安定している。
熱もないようだ。
これなら、問題ないだろう。
「気分はどうです?」
「寝違えたかな、首が痛いよ。」
「残念ながら、首の痛みに効く薬は持ち合わせていないんです。」
「そうか、残念だ。」
クスッと小さく微笑んだ彼を見て、ようやく肩の荷が下りたような気がした。
医者からの診断からずっと眠り続け、その間私は気が気ではなかったのだ。
計算に間違いはなかった。それでも、不安や心配が収まることはなかった。
だから、本当に良かった。
最後の最後に、彼の笑顔を見ることができて。
「ジル」
「はい。」
「もう、下がっていい。」
「はい、失礼します。」
そう言って一礼し数歩下がると、彼に背を向けて歩き出した。
これで、寝れる。そう思ってドアノブを掴むと、ゆっくりと部屋の外に出た。
「おやすみなさい。」そう、心の中でつぶやいて。