可愛い後輩
「ジル、入るぞ!」
バーン!とトアを蹴破る勢いで、ズンズンと入ってきたのは、私のボス薬室長と、お守りの八房さん。
「もう入ってますけど。」
「細かいことは気にするな。」
なれたよ、もうさすがになれた。
室長は、そういう人だもんね。
室長の後ろで、八房さんがものすごく疲れた表情をしているのが見えたが、この際無視しよう。
そこを突っ込むと、室長にどうしてここにきたのが効くのが遅くなる。
「室長、ドアが壊れます。」
「大丈夫だ、壊れたら八房が直す。」
「そうですか」
「なぜ私がやっ「それで、ご用件は?」
「あぁ、そうだった。
入っといで。」
八房さんの言葉を遮ってと言うか、初めから聞く気がないように見える室長は、開けっ放しのドアに視線を注ぐ。
それを追ってドアに視線を向ければ、少し大きめの服を着た少年が立っていた。
…子供?
「室長、いつの間にこんな大きな子を…」
「バカ」
「冗談です。」
「ったく。
こいつはリュウ。
リュウ、こいつはお前の教育係のジルだ。」
「は?」
「城のこと、ここでの生活のこと、薬草のこと、なんか困ったことがあったら、こいつに言え。」
「んん?」
「じゃあ、頼んだぞヴィンセント」
「え、あの室長!?」
えぇ…。
頼んだと言わんばかりにヒラヒラと手を振り、八房さんと共に部屋を出て行く室長の背中を呆然と見送り、残された私は再び少年に目を向けた。
チラッと盗み見るはずが、こっちを見ていた少年と目が合ってしまった。
1、2秒見つめ合い、ゆっくり彼の前にしゃがんだ。
室長から直々に言われたんだし、断れるはずがない。
「名前、リュウでいいんだよね?」
「はい。」
「私は、ジル。
さっき室長が言ってたように、私は君の教育係に任命それたみたいだから、よろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
子供らしくない敬語と礼儀正しさに少しだけ、違和感を感じる。
ぺこりと頭を下げたリュウは、じっと私を見て様子を伺っているようだ。その目には、微かながら不安の色が見える。
そんな些細なところに幼さを感じ、小さく笑った。
そして、私はわざと頭に手を乗せてると、くしゃくしゃと頭を撫でると、彼は大きな目をますます大きく見開き固まった。
お?
予想外の反応にフフッと笑いながら、ぽんぽんと頭を撫でる。
「そんな警戒しなさんな、とって食ったりはしないよ。」
そう言っても、肩の力は抜けるどころか、増しているように気がする。
なんか、失敗した?
「んー。
…あ、そうだ。
薬草園行きたくないか?」
「え?」
「ん?どうだ?」
「…い、行きたい、です。」
「じゃあ決まり。
とりあえず、一番近い鈴掛にでも行くか。」
うん、あそこが一番近いしメジャーな薬草が生えている。調合も簡単だ。それに、城を簡単に案内できる。
「あ、そうだリュウ。
その棚の一番下の左から三番目の本をとっておいで。」
「え?」
そう、不思議な顔をしながらも、彼は言われた通り窓際に位置する壁一面の本棚から、一冊、赤茶色の分厚い本を取り出した。
そして、少し重そうに私のもとに持ってきて、それを差し出す彼ににっと微笑む。
「合格祝い。」
「え?」
「あげる。
さっ、行くぞー!」
「え、ちょっ待って、下さい。」
「本はここに置いてきな。
また取りに来ればいいよ。というか、君はまだ自分の部屋がないから、ここが今日から君の部屋だよ。
あと、敬語もいらない。」
「え?でも…。」
「いらないよ。
他の大人には使いな。
でも、私には必要ない。
使ったらあの本やんないぞ。」
「わかり、…分かった、使わない。」
「よし、いい子だ。
さー出発しよう。」
そう言って再びリュウの頭を撫でると、少しだけくすぐったそうに頭を動かす。そんな小さな頭につい笑みがこぼれる。
それから慌てて机に本を置き、私の元に駆け寄ってきたリュウは、何も言わずに私を見上げた。そんな彼ににっこりと微笑んだ。