GWの音駒との練習はとても有意義なもので終わり、季節は夏になろうとしていた。
次第に気温が上がり始め、蝉の声が聞こえ始めている。東北の夏は、関東よりもずっと遅いけど、梅雨が終えれば夏がやってくる。
…期末テストもやってくる。
「はぁ…」
ペタッと机にほっぺたをつけて、眠そうにしている川西は、大きくため息をついた。
「テストとかダル」
「学生の本分だよ」
「真面目かよ」
あぁぁぁ。とうざいくらいのデカいため息をついた川西は、「そう言えばさー」と顔を上げた。
「今度太一の応援でトウキョー行くんだけど、町田も行く?」
「インターハイ?」
「そー。そろそろ日程も決まる頃だから」
「え、行きたい」
「オッケーじゃ、叔母さんに言っとくわー」
「やった」
実は見たかったんだよね、インターハイ。高校入って3年経つけど、まだ一度も見に行けてない。今年が最後だからと、前々から行きたいと思っていたから、願っても無いことだ。
夏休みがすぐに迫る中、こうして私は東京行きが決定した。
これでテスト頑張れる気がする。
「その代わり、私に勉強を教えてください」
「毎回教えてんじゃん」
「今回も頼むよってこと」
「赤点取ってあんたが東京行けなくなっても、私は1人で行くからね」
「ちょ!裏切り者!」
「だったら頑張れよ」
「うぃっす!」
返事は毎回いいんだよ、返事だけはね。そう言いながらも、次が自習とわかり、寝る準備をし始めた川西に、ため息をつき、静かに席を立った。
次自習だしな、サボ…休憩しようとやってきたのは、西棟に社会科資料室。いつもの感じでクリーム色のドアをあけると、グレーの棚の上に乗る箱を必死に取ろうとしている小さい生き物が目に入った。
ここは滅多に人が入る場所じゃないから、ちょっとビビったわ。
頑張ってつま先立ちをして、飛んだりしても、一向に届く気配がないんですけど。
え、かわいいなおい。ついその子を観察してしまった。
金髪のボブの女の子、見たことないし服装的にも多分一年生あたりだろう。
あんな子がいたら、清水の時みたいに噂になるだろうし。
いつまでも見ていたい気もするけど、可愛いことお近づきになれるチャンス。逃すまい。
「んー、もうちょっとぉぉ…」
ボソボソと呟く彼女の背後に立ち、
「どれが欲しいの?」と問いかけてみると、彼女の動きが止まった。
「へ?うわぁっ、いや、あああのすみませんんんん!」
「ぎゃっ、」と小さく声を漏らし、下がってきた彼女の肩を抑えると、「すすすみまぜんんん」と、やたら太い声で謝られた。
「ちょ、落ち着いて、ね?」
「は、はいぃ…」
「で、どれが欲しいの?」
「あ、あの箱を。」
どうもビビされてるな、私怖いのかな…と心配しつつも彼女が指差した箱をつかんで下ろす。
「あぁ、サルの授業か。」
「え?」
「あー、猿渡先生でしょ、これ使うの。」
「あ、はい。」
「私たちも使ったよ、これ。」
ダンボールに入っていた古ぼけた資料や教材を眺めながら、つい出てきた授業の風景は、騒がしく幼い。
これを、ステッチは模写していたような気がするな。なかなかのクオリティだったような気もする。あいつ、絵うまいし。懐かしい。
「はい、どうぞ。
持っていける?」
「だっ、大丈夫でござる
ありがとございました!」
ガバッと頭を下げた彼女は、すぐさま振り返ると、バタバタと逃げるように社会科資料室を出て行った。
…え、ござる?
あれ。
なんだろ、知らないうちに嫌われたのかな、私。埃っぽい社会科資料室に残された私は、1人ぽつりと呟いた。
「ってことがあったんだよね。」
「いねーと思ったら、サボって何やってんのホント。」
「あんたもどうせ寝てたんでしょう。」
「なぜバレた。」
「跡ついてるから」
そう言うって、自分の頬を指差した。「は!?」と驚いて鏡を見ている川西の頬には立派な手の跡が残っている。
それを確認した川西は、小さくチッと舌打ちすると、「サイアク」と呟いた。
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