花金

「僕明日から出張なんだよね」

最近、補助監督室に書類を持ってきては、我が物顔でソファに居座ることが多くなった気がする。そして今日も、先日の任務の報告書を持ってきた五条は、その長い足をくみながら、誰かが買ってきたお菓子を食べている。

今日は、休憩中だった新田さんがどこか気まずそうに別の場所に行ってしまった。こいつと同じ空間にいたくなかったから、無駄な迫力に負けたら。答えはおそらく後者だろう。
関わりのない人は、こいつの存在から既に威圧感を感じて、後とかに行ってしまうから、本当はさっさと帰ってほしい。伊地知さんの胃の事も考慮して。


「だったら、さっさと帰って準備した方がいいのでは?」
「もう終わってるから大丈夫ー。」
「あっそ。」

自分のデスクに座り、背後のソファに座る五条と背中越しに話しながら、報告書類を確認していく。


「書類はこれで処理しておくね。お疲れ様ー。」

そう言って立ち上がると、数枚のプリントで五条の頭をポンポンと撫で、確認済みの籠に滑り込ませた。

時間は17:30を回ろうとしていた。もうすぐ就業時間だ。
さて、今日はこの後何をしようか。

ぼんやりと考えながら、デスクの上の書類をまとめ、ファイルに挟んで引き出しにしまう。
撮り溜めたドラマを一気みしようか、それともおつまみを作ってゆっくりお酒でも飲もうか。

どちらにせよ、花金だ。

鼻歌が出そうになるのを押さえ込みながら、さっさと帰宅準備をしていると、「ねぇねぇ僕のこと忘れてない?」なんて、背後から声が聞こえた後、ゴンと背中に何かがぶつかったと思えば、ズシリと重みにがやってくる。
視界の端にチラリと見えた髪で、五条の頭が乗っかっているのだとわかった。

「くすぐったいんだが。」
「知ってる」

ふわふわと首筋を掠める髪にむず痒さを覚えつつも、押し返しつつも負けじと首筋にようかかる重みに、私も頭を委ねた。


「衣織、この後予定は?」
「別に何も」
「じゃあさ、ちょっとだけ僕に時間をくれない?」
「…え?」

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