疑惑

五条が出張に出かけていき、相変わらず人手の少ないこの業界で、仕事を割り振りと呪術師に依頼の電話をかけることにも、慣れてきたころ。


西東京市の少年院に派遣された一年生のうた1名が任務中に亡くなったと言う情報が、高専内を駆け抜けた。名前は虎杖悠仁。変態後の特級呪霊に一年生の3人で対応して、うち2人はなんとか逃げ切ったものの逃げ遅れたのだろう、とのことだった。

2人は帰ってくると、硝子の治療を受け2、3日は大事を取って休むとのことだった。


送迎を担当していた伊地知さんは、2人を医務室まで送り届け、最後に悠仁を運んだらしい。

きっと一番精神的に辛いのは、伊地知さんだろうに、その足でわざわざ私に教えにきてくれた。

その日は、修行間近だった事もあり、そのまま寮に帰宅した。
バクバクと心臓が震え、死という事を頭で理解することができなかった。死んだって何。

以前、友人が死んだ時も、そう思った。死んだことに理解が追いつかなくて、信じたくなくて、ただただ動けないままだった。
その日は、どうやって寮に帰ったのか記憶がないまま、一睡もできずに朝を迎えた。


翌朝は、どんよりとした曇り空で、少しだけ肌寒がある日だった。まさかまたここに来ることがあろうとは、思わなかった。


遺体安置所というより、解剖室のようなステンレスの板が等間隔に並ぶ空間の一枚に、寝かせられた悠仁は、下半身にビニールシートがかけられ、ポッカリと心臓に穴が開き目を瞑っていた。

特級呪霊を祓ったんだ、遺体があるだけマシか。3人のうち2人が生きてるんだ。一年生にしては、上出来だろう。

「今後の彼のことに関しては、悟が帰ってきてから確定する。」
「そう。」

そっと手の甲で頬に触れると、ひんやりとした冷たさが、伝わってくる。
彼の最後はどんなものだったのだろうか。苦しんだのだろか、それもの痛みを感じることなく逝けたのだろうか。

「硝子っ…他の2人は?」
「あぁ、伊地知と来た時には、虎杖のことでだいぶ不安定だったが、今は落ち着いてる。」
「そっか、良かった。…まかさ、教え子より長生きするなんて、考えもしなかったよ」

ポタポタと悠仁の頬に触れる手を濡らす水滴に、ようやく自分が泣いていることに気がついた。
おそらくどこかで信じていなかったことが確信に変わった。遺体を目の当たりにすれば、認めたくなくたって認めざるを得ない。


「代わってあげれたら良かったのに」
「へぇ、お前が弱気とは珍しいな」
「るっさい」
「そろそろ、呪術師として復帰したくなったんじゃないか?」
「さぁ、どうだろうね。」

表面上は、鼻で笑ったけど、硝子の言った通りだった。
ここまで補助監督として不平不満を思ったことはなかったけど、自分が呪術師ではないことに、こんなにも後悔したのは初めてだった。

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