規制線の向こう側
「え、何で?」
また任務の依頼かとスマホの画面を見れば、相手はなぜか伊地知さんで、今彼は呪術師の迎えに向かっているはずだ。そんな、何かあったのだろうか。
通話を繋げば、映画館での不審者に関しての調査依頼についてだった。どうやら今、伊地知さんは近くにいないらしく、向かうことが不可能でかつ対応する術師が悠仁のため、私に行けとのことだった。
「では、今から向かいますので、呪術師の方にはそうお伝えください。」
『よろしくお願いします。こちらの用が済み次第、引き継ぎに向かいますので。』
「分かりました、お気をつけて」
『ありがとうございます』
そう言って伊地知さんからの通話は切れた。
とりあえず、車を回そう。
校舎下の駐車場で、呪術師を待っていると、てっきり悠仁が対応するって聞いていたから、五条がくるものだと思っていたけど、どうやら今回は違ったようだ。
「あっ、町田先生!よろしくお願いします。」
毎回そう言って乗り込む悠仁の後から、これまた懐かしい男が乗り込んできた。
「お久しぶりですね、町田さん」
「久しぶりですね、元気そうで。」
相変わらず抑揚のない淡々とした話し方で、無表情のその男は高専時代我々の後輩だった男だ。一時は呪術師を辞めたと風の噂で聞いたが、どうやら復帰していたらしい。
「今回は、映画館での変死体における依頼です。ニュースでもあったように犠牲者は現時点で、高校生3名。同時刻に映画館にいた客に関しては、現在所在確認中とのことです。」
「分かりました。」
都心に車を走らせながら、警視庁からの情報を伝えると、どこか面倒臭そうにサングラスを押し上げた。
「そろそろ着きます。傘はそこに置いてあるものを使ってください。私は一度高専に戻ります。引き継ぎは、伊地知さんになりますので用がある場合は、そちらにお願いします。」
「分かりました。」
「警察車両の後ろにつけます。警察には、2人向かうことは伝えてありますので。」
ブレーキをひいてパトカーの後ろに停めると、2人は傘を広げ、野次馬の中に向かっていった。