補助監督業
五条と別れた後、私は伊地知さんの元に向かった。
学生時代高専内ですれ違ったことがあったのかもしれないが、それでも初対面に近い。
そして、明日から私の上司になるのだから、流石に挨拶はしといたほうがいいだろう。
そう思って補助監督が集まる部屋に入ると、神経質そうなスーツ姿の男性が目に入った。
おそらく彼が伊地知さんだろう。
「伊地知さん、ですか?」
「は、はい。…どちら様でしょうか。」
とても物腰柔らかな彼は、不思議そうに私を見ている。もしかしてこれは、話がきちんと彼に伝わっていないのでは?しかし、学長は話しは通してあるとも言っていた。
「明日からお世話になります、町田と申します。ご挨拶に参りました。」
「あ!は、初めまして。伊地知潔高と申します。」
まるで取引先に挨拶に行ったかのような光景を繰り広げた。
「学長からお話は聞いております。明日からよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
「補助監督の仕事内容はご存じで?」
「ざっくりとなら。」
「では、これを読んできてください。仕事内容と規則が載っていますので。」
そう言って伊地知さんから渡された、受験かと思うようなようなプリントの量。
ずっしりと感じる重みに思わずため息が出そうになる。
そんな事なら初めから呪術師として復帰したほうが良かったのか、とさえ一瞬頭をよぎったが、戦闘慣れしていない私は、4級呪霊でも払うことはできないだろう。
ホント、役に立たないのに、何で学長は私を読んだのか不思議でたまらない。
とりあえず、今日の寝不足は確定した。
「あ、そういえば運転免許はお持ちですか?」
「えぇ、まぁ」
「補助監督の仕事は、呪術師の送迎も含まれておりますので、日本の運転免許は必須です。」
「は、はい。」
「それともう1人、後日補助監督を紹介しますね。」
くいっと目が手を上げて話す伊地知さんに、「では、明日からよろしくお願いします。」と声をかけて、部屋を後にした。
こうして補助監督業が幕を開けたのだった。
数回伊地知さんに同行し、補助監督の仕事を見学し実際に現場に出るというやり方は、この呪術界でも変わらないようで、分からないことをひとつずつ確認しながら、ようやく独り立ちまで漕ぎ着けた。
どうやら補助監督は、一応戦闘が禁止されてはいるが、帳みたいね簡易結界をはることは許されているらしい。
最初のの独り立ち任務の前、補助監督用のスマホが支給され、その中には呪術師数名と伊地知さん、新田さんの連絡先が載っていた。
確か今日は、一年生3人組のお迎えが入っていたはずだ。なんて考えていると、もらったばかりのスマホが振動し画面には“伏黒恵”の文字。例の一年生の1人だろう。
「はい、町田です。」
「中野駅に迎えをお願いします。」
ぶっきらぼうで抑揚のない声を聞きながら、「わかりました」と言って通話を切った。