蝦夷へ

蝦夷へ

宇都宮の 邸を訪れた


旧幕府軍は、榎本副総裁を頭に蝦夷地へ向かうこととなった。


ここで、千鶴が宇都宮に残る。
まだ、沖田が生きているため、ついてやれと言われる。


千鶴が、墓参りに訪れた寺で時和と再会する。






いつからだろう。
時々土方さんは一人ふらりといなくなることがある。

それは、羅刹の吸血衝動から私達を遠ざけようとしている時とは違った。何かを追いかけているような、そんな風に見える。




月夜の晩に、島原のお茶屋さんの縁側に腰掛けじっと月を眺めている横顔は、どこら寂しそうで少し切なく見えた。

だけど、フとした瞬間クッと目を見開いた土方さんは、珍しく慌てたように窓の外に上半身を乗り出した。

そして、ただ一点を見つめそして、小さく微笑んだのだ。






どうしてそんな顔をするのか、その時の私には皆目見当もつかなかったが、こうして今この人と蝦夷へ向かう中でわかったことがある。


あの日、土方さんが思い出していたのは、この人の横顔だったのではないかと思うのだ。この人の笑顔、泣き顔。きっと数え切れないこの人の残像を、思い出を。


「千鶴ちゃん。」
「は、はい!」
「気をつけてね。
ここから先は、地獄だ。そこに生きる覚悟はある?」
「私達約束したんです、必ず土方さんを連れ帰るって。」



そう言った私は、少し高い位置にある常盤さんの顔を見上げた。すると、彼女はゆるりと笑みを漏らし、そしてポンと頭を撫でた。

その手の感触は、どこか懐かしく昔味わった感覚だった。



「私はここまでしか行けない。
顔が割れてるからね。」
「ありがとうございました。」
「そうだ、私がここまで送ってきたことは、みんなには内緒だよ?」
「へ?」
「君は、どうも嘘はつけないみたいだから、本当のことだけを話すんだよ。」
「しかし、」
「ほら、もういきな。」
「あ、はい!
ありがとう、ございました!」
「うん。」



さようなら、千鶴ちゃん。

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