漆黒の赤
からりと晴れた日の昼間。
非番だった斎藤は京の街へ繰り出していたが、特に用もなかった彼は暇つぶし程度に目に入った茶屋で珍しくぼんやりと行き交う人々を眺めていた。
そろそろ行かねばと椅子を立とうとして、ふと手に当たって下に落ちたそれを拾い上げる。


「…簪?」

真っ赤というより赤黒い色の硝子の椿が端に乗ったそれはとてもシンプルだが、年頃の少女が好んでつける代物ではない。それに、この独特の色使いはつける人を選ぶ代物だろうと、素人目にもわかる独特の輝きを放っていた。


「あら、それさっきのお客さんのやわ」

落として行って行きはったんやわ。
手の中の簪に視線を止めた店主は、困ったようにそう続ける。
そして自分と店主の視線が合わさる。


「お侍さん。届けてきてくれはる?」

両手を合わせて申し訳なさそうに微笑む店主に、斎藤は簪を持ったまま立ち上がった。
どうせこの後も特に用はない。
漆黒の瞳に焦茶色の髪の毛は一つにまとめられ、黒い羽織に黒い着物を着た女の子。

それと笑うととても可愛らしい、というおまけの言葉。


店主から教えられた情報を頼りに斎藤は、店を出た。この簪をつけ歩く少女が、いったいどんな人物なのか、なぜが興味が湧いた。
しかしどこを見ても、店主から聞かされた風貌の持ち主の姿は見つからない。







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