汚い正義
「やめなさいよ!
みっともない!」

そんな声が、蝉の鳴く中目の前の通りから聞こえてきた。否、目の前の通り、というより目の前だ。

久しぶりに団子でも食ってこようかと、街に出てきたはいいが、まさかこんな目の前で、いざこざが始まるとは、夢にも思いたくなかった。


そして、その原因は少年をかくまう少女と、どこぞの浪士が3名。
勤労云々言っていることから、おそらく幕府かはたまた土佐、薩摩か?


「最低ね、あなたたち。」

そう軽蔑した視線を送る少女は、泣き止むことのない少年を背に隠し、対峙している。


今日の女性といつのは、なかなか肝が座っているらしい。


なんて思いながら、最後の一つを食べ終えると、お茶で流し込み重い腰を上げた。


「てめぇ、今なんて言いやがった!も、いっぺん行言ってみろ!」

「あなたたち!」

今にも抜刀しそうな勢いの中に、飛び込んだ…少年??

その子は、少女の前に両手を広げて立つと、それはそれは美しい正義感を話し始めた。


「なぜ女子供に暴力を振おうとするのです!
町人を守ってこその侍でしょう!」

「なんだと!?」
「てめぇ!!」


案の定抜刀した浪士に、私は肩をすくめた。


言わんこっちゃない。
この時代に、そんな綺麗な心では生きていけないだろうに。


刀を振り上げた浪士に向かって、近くの石ころを蹴り飛ばした。


見事命中した石は地面に転がり、怯んだすきに、浪士一人に飛び蹴りを食らわせ、次に倒れたすきに刀を奪うとそのまま放置刃を返し、ほか2名の腹に向かって思いっきり振った。

それは、もはや野球選手もびっくりの素振りだったに違いない。


「あーら、ごめんなさーい。」という、町娘的な声も付け加えておいた。


カエルの潰れたような声を出して、崩れ落ちた浪士の顔の横に、刀を突き立てる。
心臓を刺さなかっただけ、感謝してほしいわ。



「侍が、そんなに偉いか?」

そう笑い顔をあげれば、目の前には先ほど助けた少年?が目を丸くし立っていて…、少女の方は子供を親の元に届けているようだ。

そして背後には、新選組の男。


「怪我はないかい?」
「え…あ、はい。」
「それは良かった。」
「助けてくださり、ありがとうございました」
「いいよ、気にしなさんな。
しかし、君の正義の心とやらには感心するが、後先考えずに行動するのはいただけないな。」
「す、すみません…」
「もし、ここに助けてくれる人がいなかったら、その正義、語れない体になってただろうね。
これに懲りたなら、少し考えて行動しなさい。それに、少し剣術ても教わったらどうだろう、そちらの方にでも。」

そう彼女に微笑んで、私の背後にいた男に視線を向ける。
この人あからさまに私を観察してるんですけど。


「斎藤さん…ですか?」

ほう、こいつの名は斎藤、ね。
新選組の斎藤といえば、組長格にも同性がいたな。

それに、あの隙のない身のこなしと、気配を消す上手さ、それを踏まえればおそらくこいつが斎藤一、なのだろう。



「貴様、何者だ」
「ちょっとちょっと、あんたも一市民に刀向けるのかい?」


そう言うと、眉をひそめ刀から手を離す。

「さてと、それでは私はこれで。
おさわがせしました。」


いつの間にか集まっていた野次馬に、一つ礼をし来た道とは反対側に歩き出す。

斎藤一か。
あそこからの抜刀は、興味があるなぁ。
まぁ、いずれ剣を交えることになろう。それまで、楽しみに取っておくことにしよう。





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