漫画的展開
「衣織、次移動だよー
行こー?」
「んー。」
トイレから戻ってくると、アリスが私の分の教科書を抱えて待っていた。
梟谷に転向してきて1ヶ月。
ようやく登校にも慣れて、教室の場所も把握できてきた。前席のアリスは相変わらず騒がしいけど、その元気な明るさに少なからず助けられていた。
何もわからない不安の中で、彼女の明るさはそれらを吹き飛ばしてくれる。
膝を伸ばしたり折ったりしている姿に小さく笑い、「待たせたな」そう言って両手を差し出すと、見上げたアリスの目が合う、それからすぐにバシンと教科書が、両手に勢いよく降ってきた。
「待ってねーよ」
「はいはい」
教科書を抱えて、椅子から立ち上がろうとするアリスの頭を、グシャッと撫で回した。
「なっ!?ちょ、衣織!」
慌てて教科書を机に置き、なんとか私の手を阻止しようと、俯いて髪を治す反対の手で私を叩こうとして、それは空を切った。
「ごめんごめん」
そう笑いながら、アリスの教科書を手に取ると、歩き出す。
「アリスー、行くよ」
「は!?あ、ちょっと待って!」
ムッとしながらも慌てて追いかけてくる彼女に笑いながら、教室を出ようとした時、どんと顔が何かにぶつかった。
痛い!けど、硬くはなかったから、ドアではない?
慌てて体を引き、鼻を押さえて状態を確認すると、私と同じグレーのブレザーが目に入った。
どうやらあれは、人だったらしい。
「ちょ、大丈夫?」
「うん、私は平気。」
焦った顔をしているアリスに、苦笑いを浮かべ、再び前を見れば、私がぶつかったであろう彼が、驚いた表情をして私を見下ろしていた。
「すみません、大丈夫ですか?」
「あ、俺は平気、だけど」
少しだるそうに答えた彼は、なぜか私の顔をじっと見たまま動かない。
…え、え?
「あの、顔に何か付いてます?」
「…え?あ、いや…。」
なんでもないデス。といった彼は、「町田さんも、大丈夫そうだね。」とだけ言うと、教室を出て行った。
…一旦何だったんだ?
不思議に思って、私の顔に何もないか確認しようと、隣にいるであろうアリスを見れば、なぜかものすごくあくどい笑みを浮かべ、さっき彼が出ていったドアを見つめていた。
「アリス?」
「え、何?」
「顔に何かついてる?」
「いや、鼻くらいはついてるよ」
「ごめん、聞いた私がバカだった」
「何それ、私に失礼」
「あんたギャグセンないんだった」
「はぁ、なんめんなし!」
ギャーギャー騒ぎ出したアリスを無理するように、教室を出て歩き出す。
なんか言ってるけど、聞こえてはいるけど、独り言っぽいから放っておこう。
「アリス、早くしないとつぎ始まるよ!」
「分かってるし、誰のせいだよ!」
プリプリと怒っている彼女に、微笑みながら真っ白な廊下を歩き出した。
そう言えばあの人、私の名前知ってたな…。やっぱり転校生って珍しいのかな。