祝転校

「そんじゃー、新学期恒例のテストを行いまーす」


なんの前触れもなく、勢いよく元気よく先制した吉木先生の言葉に、生徒からは案の定「えー」とブーイングが放たれる。

「お前らー課題やってきたんならいけっから、はい机の上はシャーペンと消しゴムだけにしてー」


話を華麗に聞き流し、吉木先生はプリントを渡し出す。

この人なかなかの強引というか、仕事が早いというか。なんて、圧倒されつつも素直にシャーペンと消しゴムだけをも残し、前から回ってくるであろうプリントを待つ。


それにしても、本当に高校生かぁ…、いや、やっと高校生か。

前から回ってきたプリントを裏返しに置き、初めの合図で表に戻す。
そして、数学の問題が羅列されたプリントに名前を書いた。


出されていた問題は、もらった課題よりずっと簡単なものだった。
公式をきちんと理解していれば解けるようなものばかりで、応用とかそういったレベルのものではない。

若干拍子抜けしつつ解いていけば、終了20分も前に見直しまで終わってしまい、見上げた時間に驚いたほどだ。


さて、終わった人から出てっていい制度なんてモノがあるはずもなくあと20分暇になってしまった。

暇だ、寝よう。

チャイムが鳴るまで、と腕を組んでその上に額を乗せる。
目をつむっていよう、と思っていたはずなのに、いつの間にか本気で寝てしまったようで、ぽんぽんと肩を何度か叩かれ、ハッとして顔を上げると前の席の子が、困ったように私を見ていた。


「ご、ごめんね!」
「大丈夫だよ、プリント集めるって。」
「ご、ごめん。はい。」

前の席の彼女は、攻めるようなこともせずにっこり笑って私の手からプリントを取って、前に回す。


その背中を見て、チラッと周りを見て、思わずから頭を抱えた。

そう言えば、課題テストの最中だったんだっけ。マジ寝するとか、あり得ん。

もう最悪だ。


うーうーと、頭を抱えて唸る私の頭を、誰かがまたぽんぽんと叩いた。
ガバッと顔をあげれば、前の席のあの子で私の机に肘をついていて、私と目が合うとにこりと笑った。


「テスト中に寝てる人見たの久しぶり」

そう言ってぶはっと吹き出した彼女に、私は何も言えずにクスクス笑う彼女を見つめてしまった。

「ヨダレ」
「…え!?」

慌てて口元を手で隠すと、またもや彼女はぶはっと吹き出した。

「嘘」
「はぁ!?」


なんだこの子。
なんか知らないけど、初対面だけど、腹立つ。


「ごめん、ごめん。
私、成澤アリスよろしくね」
「町田衣織です。
こちらこそ。」


こ、高校生と話すなんて。緊張しながら恐る恐る彼女を見ると、栗色のふわりとしたボブの髪を揺らして微笑んでいた。

「そういえば、町田さんは前はどこにいたの?」

足を通路側に投げ出し、横を向いたまま話す彼女をチラッと見てから、そっと窓の外に視線を移す。


「宮城」
「へー、宮城かぁ。
親の転勤とかでこっちに来たの?」
「まー、そんなところかな。」
「ふーん、でも全然訛ってないね」
「そう?
多分宮城の人と話したら訛るよ」
「マジ?聞きたい」
「いや、無理だから」
「えー、なんとかだべ?とか使うんでしょ?」
「うん、使う。」
「それネイティヴで聞きたい」
「なんだ、ネイティヴって
つか、やだ」
「ケチ」
「なんとでも」
「ケーチッ!」

むーっとほっぺたのかすかに膨らませ、目を細めた成澤さん。

なんだこの不毛な言い合いは。
つか、そんな顔したって言わないからな。かわいいけど、…かわいいけど!
それとこれとは話が違う。

無言の攻防を続けていると、「次始めんぞー!」吉木先生が入ってきて、騒がしかったクラスがガタガタと席に着き始め、成澤さんもどこから不服そうな表情をしながらも前を向いた。

どこかほっとしつつも、そんな可愛らしい彼女に好感を持っているのは言うまでもなく。チラッとあった目が、どこか子供っぽくて、つい笑ってしまった。



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