闇の夜
目を覚ました時、あたりは真っ暗闇で、それはまるで自分が視力を失ったのではないかと、錯覚させるほどだ。

視界がはっきりしていなくて、窓の外にぽっかりと浮かんだ月の輪郭が歪んで見える。

ここは瀞霊廷?違う。…救護所でもない。
頭がボーッとして、何も考えられない。
ふと見た右腕には何本も管が繋がり、そこから栄養と薬物を摂取している。

腕が付いていてましてや感覚が残っている。今はそれを喜ぼう。


そう考えながら、ふと視線を左腕に向ければ、私の手を握ったまま眠る銀髪が見えた。


月の光が照らすその横顔は、懐かしい最愛の人。相変わらず綺麗だと、思わず見とれてしまうほどだ。

私の手を包み込んだまま眠っている彼を起こさないように、そっと手を引きぬく。


案外簡単に手を動かせたことに驚きながら、ぎゅっと力込める。


握れる。


そして久しぶりの横顔に手を伸ばし、そっと頬に触れる。

相変わらず荒れ知らずのキメの細かい肌ですこと。なんて、妬みつつしっかりのその体温感じることができた。

見ないうちにだいぶ大人びた彼は、相変わらず口元と左目を隠し、眼下に繋がる傷が痛々しく残る。


私は、どれくらいこの状態だったのだろうか。
ミナトに会ったのも、夢?
瀞霊廷にいたのも?現世も?何もかもが夢?

だけど確かに私は生きた。水瀬ヒイロとして。そして、役目を全うし…死んだ。



「ヒイロ…?」
「え?」

「ごめん、起こした」
「…ヒイロ?」
「そうだよ。ほら。」


そう言ってぼんやりと私を見ていた目が、丸くなり珍しく驚くカカシの頬に手を当てる。


「信じられないなら、つねろうか?」


そうククッと笑えば、ガバッと体を包み込むように抱きしめられた。



「ちょ、カカシ?」
「もう一回」
「は?」
「もう一回、名前、呼んで」
「カカシ」
「もう一回」
「カカシ」
「もう、一回っ…」
「カカシ」
「うん」


そう耳元で小さく呟くと腕に力が入ったのがわかった。病衣にしがみ付くように。

「今までどこにいたんだ、死んだと思ってたんだぞ。俺がどれだけ…」
「うん、ごめん。
…ちゃんと話す、聞いてほしいこともたくさんある。」


慈愛か恋愛か、幼い頃私は彼をどう思っていたのだろうか。彼は、私をどう思っていたのだろうか。

だけど今はこの温もりがこんなにも愛おしい。


「私はどこにいたの?」
「サクラが見つけたんだ。木に引っかかっていたから、運んだと聞いた」
「…え、木に引っかかってた?」

…え、何その間抜け。ありえない。

「どれ位眠ってた?」
「3日。」
「私は死んだの?」
「違う。死んだと思われていた、誰もがそう思っていた。
お前がサクラに連れてこられるまで。」
「…ミナトとクシナさんは。」

そう言うと、カカシは無言で頭を振った。

「だから、信じられなかった。顔を見るまでは。」顔を私の首筋に埋めたまま、ボソボソと話すカカシ。


そうだ。私はあの時…1番近くにいたんだ。ミナトの近くに。そして彼は、苦しいはずなのに笑ったんだ。

そして、私に向かって何かを投げつけた。それがちょうど目の前に刺さり、気づいた時には病院のベッドに横になっていた。

「あの子は!ミナトの子は!」
「安心しろ。元気だ」
「そ、か…」

それは良かった。死んでなかった。ミナトの死は、ちゃんと里の未来を守れたんだ。

そう思ったら安心したのか急に力が抜けて、ポトリと手がベッドに落ちる。


あれなんだかまた眠くなってきた。
せっかくカカシと話せたのに、また寝ちゃうのなんな嫌だなぁ。
もっと聞きたいことたくさんあったのに…。
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