最愛なる人へ
「まだ一緒になってないとは…読みが外れた。」


そう隣で感慨深く頷いているのは、4代目火影 。
以前は黄色い閃光なんて呼ばれたとても優秀な忍びだったが、里に侵入した九尾により、夫人とともにこの世を去った。はずだったのだが…。


えっ、なぜここにいる?


「…本物?」
「何言ってるの、ヒイロ。
ほら。」


そう差し伸べられた手は、昔となんら変わらない潰れた豆と傷跡が残る大きな手。
それは昔、私がしがみついて話さなかった手だ。懐かしさを感じる反面、とても悲しい気持ちになる。

なぜなら、その手にすがることはもうできないのだと、知っているから。
あの日の出来事は、夢でも想像でもない現実。

彼は死んだのだ。




「無理」
「え、…え、酷くない?
久しぶりのお兄ちゃんだよ。」
「お兄ちゃんとか気持ち悪いよ。」


え…と、固まる兄は相変わらずうっとしい。
手を引っ込めたミナトは、困ったように笑った。
どこか悲しそうに見えた気がしたけど、すぐに見慣れた笑顔に戻っていた。


「一つ聞いていい?」
「ん?何?」
「私は死んだの?」
「いや、死んでないよ。
でも、ヒイロが俺と会えてるって事は、…言わなくてもわかるよね。」
「そうだね。」


表情を変えぬまま、頷く兄。
要するに私が今立っている場所が、生と死の境ということなのだろう。


「じゃあ、さっき手を掴まなくて正解だったわけだ。」
「そう。
あれが、最後の審判だったんだ。
だから、俺の願いが届いてよかったよ。」


掴んでいたら、私はそっちの世界に入っていたってことかな。
死人に頼ってしまうほど、弱っていたと判断されるってことなのかな。



「…願い?」
「そう。
ヒイロが、生きること。
手がシワシワなおばあちゃんになるまで生きること。」
「なんか、重い」
「相変わらず辛辣だなぁ」


あはははと、声を上げて笑うミナトは、おもむろにポンと私の頭に手を乗せくしゃりと私の髪を撫でる。


触れるんかい、とか思ったけどそれが口を出て行く前に、ミナトの笑顔に先を越された。


「お前が幸せそうで良かった。」
「うん。」
「もう会うことはないだろうけど、ずっと見守ってるよ。」
「うん。」
「カカシのこと、頼むよ。
あいつ、本当は弱虫だから。」
「知ってる。」
「今だって、いつまでたってもお前が目を覚まさないから泣いてるよ?」
「それは、ミナトが。」
「そ。俺が引き止めてるんだけどね。
だって、これから先お前達は一緒にいれるんだろう。
少しくらい俺がもらってもバチは当たらないさ。」



な?と微笑んだ兄に、小さく頷く。
もう少し話していたいと思ったのは、私だけではなかったことがとても嬉しくて、でもこれが現実ではないことが、とても虚しかった。



「ヒイロ」
「ん?」
「泣かないで。」
「泣いてないよ、平気。」
「そうだね。」


そう言って、涙を拭ってくれた手は、とても暖かく懐かしい。
さっき頭を撫でてくれたミナトの手に、暖かさは感じなかったのに。



「ミナト?」
「もう時間のようだ。」
「え?」
「あまり可愛い教え子を悲しませるのはよくないからね。」


そう言って微笑んだミナトは、そっと私のほおに触れた。

「ミナト。」
「何だい?」
「助けられなくてごめんね。
それと、助けてくれてありがとう。」


そう言うとミナトは泣きそうに笑みを残し、ゆっくりと消えていった。


そして、ぼんやりする意識の中で、誰かが何度も何度も私を呼ぶんだ。
それはもううるさいくらいに。

だけど、その声がやけに懐かしくて心をぐっと掴まれたような不思議な気分にさせるのだ。
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