休みの使い道

清々しくも晴れやかな土曜の朝。スズメが鳴いている。本日もまさにゲーム日和である。
最近発売されたばかりのゲーム。

モンスターを狩って、武器の材料を手に入れて徐々に自分を強くしていくという、まさにロングヒット作品だ。
ちなみに今作で5作目だ。もちろん全作制覇中だ。



昨日の学校帰りに、予約していたこいつを駅前の電気屋に取りに行ったばかり。
おかげで昨日は、今日が土曜日だってことをいいことに寝ずにプレーしてしまったのだ。おかげでクマがやばい、2匹もいる。が、止まらなくなるんだから、仕方がない。
布団の中でちょっとモゾモゾした後、スマホはスエットのポケットに。それから、研磨とお揃いのステッカーが貼られた愛用のブルーのSPSと向き合いながら、階段を下りる。

あ、そういや、研磨はこれを買ったのだろうか。後でRINEしてみよう。
もし買っていたら、オンラインで一緒に狩りに行ける。



カチカチとカーソルとボタンを操作しつつ、パジャマのまま一直線にリビングのソファーに横になる。 読み込み中に研磨にメッセージを送り、再び画面に視線を戻せば、ちょうどよくクエストが始まろうとしていた。


今日一日、まさかのパジャマ姿。研磨にカラカラだねと言われても何も言えない。


洗濯物が入ったかごを持ったお母さんがため息混じりに、「あんた、指先器用ねぇ」なんて遠まわしなイヤミにだって、「ありがとー」と笑って手を振れる。

ものすごい勢いで隕石が降り注ぐ中、必死になって攻撃をしていると、テーブルに放り投げておいたスマホがブルブルと震えた。

チカチカと光るそれに気ついていても、今これからクライマックスで話すなんてありえない。だってもうちょっとで倒せるんですから!!

電話だったらまたかかってくるだろ、なんて無視してSPSの画面のモンスターに集中する。

うはっ、もうヤベェ威力だなこいつ。

いつの間にか止んだと思っていた着信音が、またしばらくして再び鈍い音を立てだした。

今回は長い。電話のようだ。
ちっ、返信しないって気がついたのか。

いつまでも震えるスマホを横目でチラっと見て、そのうち諦めるだろうとたかをくくっていたが、なかなか着信音は止んではくれない。

結局クエストをクリアしいったんキャンプに戻り、恐る恐るスマホを手に取れば、案の定見慣れた友人の名前が表示されていた。

え、不在5件?怖っ。


画面を見つめて数秒。
また震えだすスマホからは、なんだろう執念を感じるんだけど。
あまりのしつこさに呆れ、深くため息をつき、渋々画面に触れスマホを耳に当てる。


「おかけになった電話は、現在使われたくありません。」
《あ?いや、意味わかんねーし。
つか、出んのおせーよ。お前、出る気無かっただろ。》


電話の相手は、案の定不機嫌だ。
そんなの知っている。私だって不機嫌だからな。


「チッ。
…あんたはしつけーよ。」
《舌打ちすんな、女なんだから。》
「女だって、舌打ちの一つや二つするわ。」

そう言うと、電話の向こうの友人は《はぁ》と、わざとらしくため息をついた。
マジこっちまで聞こえてんだけど。
ため息つくなら、小さく付けよ。もしくは、私に聞こえないように。

「で、何用ですかな?」
《お前、今日暇だろ。》
「え、メッチャ忙しい。
猫の手も借りたい、アイルーも借りたい。」

おっと。

《は?
海は今日一日暇にしてるはずって言ってたぞ》
「…えっ。」


…海。私を売ったのか…。
いや、絶対はめたな?昨日RINEしたときに、珍しく羨ましがってたし、私が明日暇なことに。

まさかの裏切りに、落ち込んでいる私(もうHPゼロです)を無視して、黒尾は話を続ける。

《椎名》
「んー?」
《練習見て欲しいやつがいんだけどよ。》
「えー、またぁ?」
《頼む、宮城遠征の間だけでいいからさーレシーブクソなんだよ、そいつ》
「くそって…」
《なぁ、頼むよ》
「えー…、わかった、分かったよ
遠征中だけね」
《サンキュー、椎名》
「おう」
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