イモジャー女

以前使っていたジャージを引っ張り出して、友人たちが休みを満喫する中、私はバレー部が使う体育館に来ていた。

見慣れたあのトサカやプリンはおらず、数人の下級生が練習をしていた。



「あ、緋色さーん!おはよー!」
「おー、おはよー」


朝から元気だなぁ…体育館の窓から、長い手をブンブン振るリエーフに、手を振り返し靴を取り替えて体育館に入る。
数日前から練習に参加しているせいか、リエーフの初めとする初心者組とはある程度の仲を築くことができている。

ゴールデンウィーク練習2日目。
今日もまだ5月だというのに恐ろしく暑い。
いくら窓を開けているからといって、カーテンを閉めているせいで入ってくる風も遮られてしまうんだから、ますます熱気がこもる。

みんなで準備体操とアップを取り、ブロック練にダッシュとルーティーンになっている基礎練が終わると、それぞれ個人練習に入る。

私も、一番下手くそなスパイクレシーブに入るリエーフの元に向かう。


「おねしゃーす!」
元気よく頭を下げたリエーフに、ポンとボールを放りまずはパスから始める。そこから対人、サーブレシーブに進んで行く。


「リエーフ、腕ふるな!」
「あ、ウッス」
「もっと腰を落とす!」
「ウィッスー」

「オーバーは、なるべく額の真上で!」
「ウィッぶっ」
「もー、よそ見しない!」
「レシーブは、正面でって言ってるでしょー!楽をするな、足を動かせー!」
「アンダーに頼るから、詰まっちゃうんでしょ。
胸から上はオーバー!」
「あ、肘!」
「う、ウィッス!」
「声がちいさーい!」
「ウィッス!!」


何度かの休憩を挟んでは、レシーブ、フライング、レシーブレシーブ、フライングと、レシーブ三昧の練習。
もちろんサーブとか、ブロックとか、やらなきゃいけないことは山ほどあるけど、そんなもんは黒尾ややっくんに教わればいい。
スパイクだって、研磨とタイミングを合わせたほうがいいし。
そもそも、私じゃ役立たずだろう。

午前中の最後の練習を終え、体育館の床とチューしている灰色ノッポを無視して、窓際にどかっと腰を下ろし、少しでも体を冷やす。

疲れたなぁ…
久々にやると、なかなかきつい。これは、筋肉痛決定ですな。

スポーツドリンクを開けて喉を潤すと、ちょうどよくお腹がグッと短い音を立てた。


体育館の壁にある時計は、もうすぐ12時を指していて、いつの間にかお昼。
そんなにやっていたつもりはないんだけどなぁ、早いなぁ…なんて思いながらへばるリエーフの隣に座り、トントンと背中を叩く。


「リエーフ、起きて」
「も、…無理っす…」
「うん、だからお昼にしよう」
「え!!お昼!」


さっきまでへばってたよね?と言いたくなるほど勢いよく起き上がったリエーフは、キラッと顔を輝かせ、体育館の端に猛ダッシュ。


「おいおいおい、まったまった!」
「えー、お昼でしょー?腹減ったっす!」
「わかってるよ、でも最後ストレッチしよ。
お弁当持ってこっちおいで。」


ヒラヒラの手招きして、えらいでかい弁当を片手に戻ってきたリエーフを、私の前に座らせるとゆっくりぐーっと背中を押す。


「くーっ、膝の、裏が…いだい」
「はい、今度は足開いてー」
「いだだだだ!」
「リエーフ、体かったいねー。
ハイ次寝転んで、足はこっち」

「緋色さんは、柔らかいんすか?いっ!」
「まぁね。
あ、膝曲げたら意味ないでしょ!」

ストレッチも一通り終わり、私もお弁当を持ちドアが開いた窓際に腰を下ろす。



「よーし、ご飯食べよー」
「あ、一緒にいいっすか!」
「いいよー、食べましょー」


リエーフ以外に残っていた下級生も、集まってきて窓際でみんなでワイワイお弁当を広げる。


「リエーフのお弁当美味しそうだね」
「あ、これ、姉ちゃんの手作りっす!」
「へー、お姉さんお料理上手なんだね。」

羨ましい。

「千櫂さんは、料理しないんすか?」

モグモグと口いっぱいに、いなり寿司頬張るリエーフに、苦笑いを浮かべる。

「それなりに、かなぁ」
「もしかして、その弁当は緋色さんの手作り?」
「まー、一応ね」
「うまそっすね!」


キラキラと私のお弁当を見つめるリエーフに、卵焼きを差し出すとパクリと一口で食べた。

おぉ、一口。
「じゃあ、俺のタコさんウインナー緋色さんにあげるー」とリエーフとおかずを交換して、他の部員にクーラーバックで冷やしておいたゼリーを渡して、午後はOBが来るってことで、私の役目はここまでになった。



「えー、緋色さん帰っちゃうんすか?」
「うん、また明日ね!」
「はーい」
「今日やったこと、午後の練習でも忘れないでね」
「あ、ハイ!」

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