月と星
仁花の部活が終わるまで待って、一緒に帰ろうと約束した週末、終了時間少し前に体育館を訪れれば、ホワイトボードの前に集まって、ミーティングをしているようだった。
それが終わるとすぐにモップがけをする日向を見つけた、と思いきや誰かと話している。
相変わらず騒がしいし、部活が終わったっていうのにまだ動き足りないようだ。
その中に幼馴染を見つけ、ひらひらと手を振るとパッと明るくなった顔で、ブンブンと手を振っている。
「衣織ー。」
「このやろー、月島ー!」
仁花の声と重なって聞こえた日向が叫んだのは、つきしま。それは、先日私を助けてくれた人の名前。
ハッとして日向の声の方を見れば、バチっと視線が重なったメガネの長身の男子生徒。向こうも一瞬驚いたような表情を浮かべ、だけどすぐさま日向を見下ろすとニヤリと笑って何か言っているようだ。
「衣織、どうかしたの?」
「あのメガネの人が月島くん?」
「うん、そうだよ?」
無邪気な笑顔を浮かべて、不思議がる仁花になんでもないと首を振る、「外で待ってるね。」と告げて先に体育館を出た。
彼が月島くんか。ようやく顔が見れた。嬉しいような、気まずいような不思議な感覚。
10分後、校門に現れたのは仁花だけではなかった。薄暗い中にガヤガヤと騒がしい黒い集団。
辺りが暗いから周りの景色と同化してて、よく見えないが1人2人ではなさそうだ。
あの中に仁花がいるのだろうか。校門を追加している集団に目を凝らしていると、「衣織」と全く別の方から名前を呼ばれてハッとして顔を向ければ、ブンブンと手を大きく振る仁花をとらえた。
「ごめんね!遅くなっちゃって」
「大丈夫だよ」
そう言って笑顔を無ではしたが、気になる仁花の両隣の存在。
「同じ部の山口くんと月島くん。途中まで一緒に帰ろうって話になって。」
少しだけ申し訳なさそうに話す仁花に微笑むと、長身の2人に視線を向ける。
1人は先日お礼を渡してくれた隣のクラスのいい人。それと、もう1人は。
「どうも。」
「こ、こんばんは」
首の後ろを触りながら苦笑いを浮かべる山口くんと、その隣でぼんやりと眺めている月島くん。
「ど、どうも。」
なんとも対照的な2人だ。そう思いながら進み出したはいいが、なぜに私はほぼほぼ初対面の月島くんと並んで歩いているのだろうか。
目の前では先日の期末テストの話で盛り上がっている山口くんと仁花がいて、その話に混ざりたくても混ざれない私は、その2人のやり取りを聞き流しながらぼんやりと歩いていた。
「あの後…」
「…え?」
「ちゃんと帰れたの?」
あの後というのきっとコンタクトを落としたあの日のことだろうか。
「仁花に送ってもらったけど、無事に帰れました。その節は本当にお世話になりました。」
「…別に。」
ボソッと呟かれた言葉に、いや別にってなんだよ。ときっと仲のいい仁花とか友人だったら言い返していたところをぐっと我慢して、小さく息を吐いた。
「あと、チョコレートありがとう」
「え?」
「君でしょ?」
「あ、う、うん…いや、こちらこそ。」
ちゃんと月島くんに渡っていて、山口くんを信用していないわけではなかったけど、少なからずホッとした。
「コンタクトを落とすとか、町田さんドジ過ぎでしょ」
「は?落としたくて落としたわけじゃないし」
「落としたくて落とす人なんているわけ?」
月島、このヤロー。
ククッと笑う月島くんを睨みながら、フンと顔を背けた。