覚悟
一日中考えて土日も考えて、結局出た答えは次の模試まで勉強をしてみる、だった。
11月上旬にある模試を受けて、とりあえず自分の学力を測ることが先決だろうというか考えに至ったのだ。残り約2週間。
6限の授業が終わり、いつもなら部室に向かう足を、正反対に向け自習室に向かった。
部活に入っていない友人が、今日やった内容を復習して、家で模試の方をやると言っていたからだ。
自習室の隅っこに腰を下ろすと、早速数学を課題を広げてた。
数学は割と好きだし、今日の内容も難しくはなかったはず。a5のプリントを解き始めた矢先、プリントに影ができかがっと鈍い音とともに椅子が引かれ、誰かが腰を下ろした。
私が顔を上げるよりも先に、聞き慣れた声が降ってきた。
「ねぇ、春高出ないってホントなの?」
顔を上げなくたって分かる低めの落ち着いた声。その声の持ち主に、少し気まずさを覚えながらゆっくりと顔を上げた。
「月島」
スラックスのポケットに片手を突っ込んで、スクールバッグを肩にかけたまま机の下に足を伸ばした月島は、頬杖をついてじっと私を見ている。
「まぁ、この現状を見れば分かるよね」
「ふーん。」
私の返事が気に食わなかったのか、興味がなくなったのか、体を起こし両手をポケットに突っ込んだまま、ぼんやりと前を向いた月島に、少しだけホッとしながら、私もプリントに目を落とした。
「今日ミーティングだけなんだけど」
「へー、よかったじゃん」
「30分くらいで終わるから」
「…え?」
驚きと混乱で、はっとして顔を上げた時には、扉の向こうに消えていく少し猫背の背中を眺めることしかできなかった。
え、今のどういうこと?ここでしか待ってろってこと?
自分に都合のいい方に考えてしまう自分に呆れながら、そういう意味だったらいいのにと思ってしまう自分はバカだなあと思った。
集中し過ぎたせいか課題も予習も一通り終わり、ふと時計を見ればすでに2時間が過ぎていた。
いつのまにか外は薄暗くなり、街灯の灯りがぼんやりと暗闇に並んでいた。
そろそろ帰るか、そう思ってリュックを背負って自習室のドアを開けようと手を伸ばした瞬間、目の前のドアが勝手に開いた。
そして、すぐそばに見えた黒い学ランと、首元のヘッドホン。
「まだいたんだ」
顔を上げた先にあった無表情。
「…待ってろって意味だと思ったんだけど。」
「…自惚れないでよね」
「そっちこそ。」
かすかにムッとした表情を浮かべた月島は、暗い廊下をそそくさと歩き出した。なんとなくその背中をぼんやりと眺めていると、ピタリと足を止めた月島は振り返る。
「ねぇ、ずっとそこにいる気?」
「…あ、あぁ、帰るよ」
少し離れた先で、怠そうにこっちを見ている月島に向かって歩き出した。